一般的にグラフィティアートと呼ばれるもの、ようするに公共の壁や看板に描かれた、スプレーによる落書き。これを消すのがデイダラの仕事だった。
「普通の薬剤じゃ消えねえんだ」奴は研究を重ねて、効果のある薬液を作り出していた。オイラはたぶん、世界一落書きを消すのが上手いぜ、うん、と気取り、胸を張る。
「いくつかのグループがあるんだ」デイダラは苦々しい顔をする。「『俺たちはこんなところにまで描いたぜ。ここは俺たちの縄張りなんだ』とかさ、そういうくだらねえ自己主張してやがんだ、うん」
「縄張りを表すとか言っても、これ自体はアートなんだろ?」と俺は落書きを叩いた。グラフィティアートと呼ぶくらいだから、「芸術」なのだろう、と短絡的に考えたのだ。
「芸術なんかじゃねえよ」デイダラは短くきっぱりと否定した。「グラフィティアートのルールってやつを知ってるか?旦那」
「ルールなんてあんのか」
「ルールがあるんだ、うん」デイダラは指を折る。「一つ目、絶対に見つかってはいけない。二つ目、出来るだけ素早く描く。三つ目、自分より上手いグラフィティの上には描いてはいけない」
「素早く描く、ってのは変だろうが」
「さすが旦那!」
「だろ」
「オイラもそこが納得できねえ。『素早く描く』ことと、『アート』は相反するもんだ」モップを振り上げてデイダラは声を強くする。「適当なとこで、素早く描いて逃げる、なんてのは『アート』じゃねえ。サツに逮捕されんのを怖がって妥協した絵のどこが『芸術』だってんだ、うん!」

   * * *

「そういや、お前さっき言ってたよな。グラフィティのルールでは、上手い絵の上には描いたら駄目だとか何とか」
「そう、基本的なルールだ。うん」
「だったらお前が描いたらどうなんだ。どうせ消したって、また描かれんのがオチだろうが。『綺麗にしてくれたんですね、有難うございます、新しいキャンバスができたので新作を描きます』とか言うくらいだろうぜ、連中は。だったらお前が描けばいいじゃねえか」
「旦那、鋭い」デイダラが振り返った。「一応許可はもらってんだ、この地下道になら描いていいってさ」
「へえ、いつやるんだ」
「今日の夜にでも」
「一晩で作るのか」
「一晩あれば十分だ、うん」
「『素早く描くのは芸術じゃねえ』って、さっきどっかの餓鬼が喚いたと思ったが」
「旦那、餓鬼の言う事なんて信じちゃ駄目だぜ」




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -