盲いた目

「ぼくノボリみたいになる!」
「...はい?」

いきなり言い出すのでしょうか?
同じ顔ですのに私みたいになるとは一体...?

「あのね、受付の子達が言ってた。ノボリはかっこいよくて、ぼくはかわいいんだって。」
「はあ...」
「ぼくヒメにかっこいいって思われたいの!だからかっこよくなる!」

なるほど。
また何かに影響されたのかと思いましたがそんな理由だったのですね。ヒメ様はクダリに最近出来た初めての恋人にございます。ヒウンアイスを買いに行った時に、完売で買い損ねたクダリに分けて下さったのが出会いだとか。

「クダリボスー、彼女さん来てますよー!」
「通してあげて〜」

あぁ、そういえば今日はクダリ早番でもう業務は終わりなので、その後ヒメ様とデートに行くと言っておりましたね。

「お二人ともお疲れ様です。」
「ヒメ、待ってたよ。外寒くなかった?」

早速実行しているようです。
いつもでしたらヒメ様が来た途端に飛び付いてキスを連発しておりましたが、今日はふわりとヒメ様の頭を撫でているだけにございます。

「え?...あ、えと、そこまで寒くなかったですよ。」
「そっか。良かった。じゃあ行こっか?」
「あ、はい。...ノボリさん失礼します。」
「楽しんできて下さいまし。」

ヒメ様もいつもと違うことに気付いたようで、何やら不思議そうな顔をしてこちらを見ていました。さて、このクダリの選択は吉と出るか凶と出るのでしょうか。まぁ何となく答えは見えているようですが。







***

それから一週間程経過致しました。
その間もクダリは私の真似事(なんだか複雑ではございますが)を続けていました。正直すぐに飽きていつものクダリに戻るかと思いきや意外に長続きしているのです。ヒメ様に格好良く思われたいという意志がそこまで強かったとは。

「ノボリボス、ちょっと良いですか?」
「えぇ、どう致しましたか?」
「ヒメさんがお話があるみたいで来られてます。」
「私にですか?通して下さいまし。」

扉を軽くノックする音が聞こえ、返事をすると申し訳なさそうな表情でヒメ様が入って来ました。

「お仕事中にすみません。ちょっとご相談したいことがあって...」
「構いませんよ。クダリのことでしょう?」
「...!はい、そうなんです。」

このヒメ様の浮かない顔を見る限りは凶が出てしまったようですね。先程の申し訳なさそうな顔から泣きそうな顔に段々と変わってきています。

「少し前から何だかクダリさんの様子が違うんです。前みたいに抱き締めてくれる回数も減ったし、キスもあんまりしてくれなくなったんです。なんかちょっと違う人みたいで...私嫌われちゃったのかなって思って。ノボリさんにこんなこと話しても迷惑だって分かってるのにごめんなさい。」

口にしたことで堪え切れなくなったのが潤んだ瞳から涙が零れ落ちました。ポケットからハンカチを取り出してヒメ様に渡すと小さくお礼を言って受け取りました。ヒメ様はとても優しい方で、私はクダリとの恋を応援したいのです。





「ヒメ!来てるの?」

さっきトレインからヒメが歩いてるのが見えた。また会いに来てくれたのかなって思ったら嬉しくて急いで戻った。
応接室に入るとヒメが泣いててその横でノボリが慰めてた。え?なにこれ?どういうことなの?

「ノボリ、ヒメに何かしたの?」
「まさか。ヒメ様、先程私に仰って下さったことをクダリにもしっかり伝えて下さいね。」

ヒメの頭を一撫でしてノボリは出て行った。すれ違い様に「もっとしっかりヒメ様のことを見てあげて下さい」って言い残して。ぼくの知らないところで二人で何を話してたんだろ。もやもやする。

「ヒメ、ノボリと何話してたの?」

ヒメの隣に座ってそう声をかけると、抱き締める回数やキスの数が減ったこと、いつもと違うぼくの態度が嫌われてるのかと思って不安でノボリに相談しに来てたことを話してくれた。
ぼくほんとに馬鹿だ。ヒメにかっこいいって思われたい一心だったのに、結局それでヒメを悲しませるなんて本末転倒ってやつだ。

「ごめんね。ぼくヒメにもっともっと好きになって欲しくて、かっこいいって思って欲しくてノボリみたいになろうと思ったの。
だからぎゅってするのもキスするのも我慢してた。」

今までの分を埋めるように、ぼくの気持ちがしっかり伝わる様にヒメをぎゅうぎゅうに抱き締めた。

「ほんとクダリさんばかです。私はそのままのクダリさんが一番大好きなのに。」

まだ涙が残った目で嬉しそうに笑ってくれた。こんな君のことが好きで空回りしちゃうぼくでもそのままのぼくを愛してくれる。こんな幸せなことがあっていいのかな?ずっとずっとヒメのこと大事にするからね。その気持ちを込めて小さくて色付きの良い唇にひとつキスを落とした。




盲いた目
「ノボリボス...そんなに扉にくっついて何してるんですか?」
「今良いところなのです!静かにして下さいまし!」
「はあ...?」






*****
みお様から頂いた初めての恋人にかっこよく思われたくて空回りするクダリ夢でしたー!
素敵な設定を頂いたので書いててとても楽しかったです(*´∀`*)なんだかノボリさんがただのブラコンで出しゃばってしまいました\(^O^)/お気に召して頂けると嬉しいです^^
キリリクありがとうございました!



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