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▲花冠

※和パロ注意。












私は今でも鮮明に覚えております。
そう、彼女が落ちてきた日のことを、








私達が生きるこの世界には古よりポケモンという妖が数多くおりました。ですが環境の変化や人間達の乱獲などにより数が昔と比べると格段に減ってきているのです。私達はポケモン達が生息する山に屋敷を構えて先祖代々守ってきていました。私も学生の身を卒業し、この屋敷の当主となりました。双子の弟のクダリも同じです。ただしクダリには妖狐の血が流れておりました。これは私達の家系では双子が生まれた際にはかなりの高確率でそうなるのだとか。クダリがポケモン側から、私が人間側からとそれぞれの役割を持っているのでございます。





その日の夜はヤミカラスが非常に騒がしい夜でした。このまま続くのであれば明日様子を見に行かねばならないと思っておりました。

しばらくして私の屋敷の結界に何かが侵入してきたのを感じ取りました。やはりうまく共存出来る妖ばかりではないので屋敷の周りには結界を張り巡らせておりました。結界を越えてきたということは恐らく悪いものではないのでしょう。

私は念のため使い魔のシャンデラを召喚して、庭へ様子を見に行きました。そこで目にしたのは庭の真ん中でぐったりと倒れている小柄な女性でした。いえ、女性というには少し幼く、女性と少女の間位でしょうか。彼女は透き通るような銀色の髪の毛と、同じく日に当たったことがないような真っ白な肌、大きな金色の目を怯えたように揺らしてこちらを見ていました。目を見張るような美しく、愛らしい容姿でしたがそれだけであれば特に気にすることはなかったのです。問題は彼女の背中から生えている純白の羽でした。光り輝くそれは左は綺麗に伸びておりましたが、右側は骨折したかのようにぐにゃりと歪んでおり、真っ赤な血が流れていました。

「貴女は...、」
「ひっ、やだ...!来ないで、ころさないで...っ」

ずるずると後ろに下がって抵抗を試みているようでしたが、きっと羽以外にも怪我をしているのでしょう。立ち上がることすらままならないようでした。

「殺したりなど決して致しません。宜しければ怪我の手当をしたいのですが如何でしょうか?」
「...私のこと売り飛ばしたりしない?」
「する訳がありません。」
「解剖しない?」
「生憎解剖などには興味がございませんね。」
「...お願い、します...」

少しだけ警戒心が解けたようでございました。彼女のそばへ近付くと、左足は落ちた時に捻ったのかどす黒い紫色変色していました。歩くことも難しいでしょうから、怪我をしている羽に触れないようにそっと抱き上げました。私達の眼下でふわふわと踊る白い羽を見ながら彼女に問いました。

「私は本でしか知らないのですが、貴女は天使なのですか?」
「......うん。」
「そうですか。とても美しい羽をお持ちですね。」
「...!」

屋敷に連れて行き、手当をしながら色々な話をしました。
天界から初めて人間界に降りてきたものの、いきなりの強風にこの山まで飛ばされ、ヤミカラスに攻撃され羽を痛め、この屋敷まで落ちてきたのだとか。少しお転婆な方のようですね。

「あの、その、あ、ありがとう...ございます。」
「ふふ、お気になさらず。話し方も貴女の話し方で構いませんよ。お名前を聞いても?」
「ヒメ!あなたは?」
「私はノボリと申します。その羽ではまだ飛んで帰れないでしょう?完治するまでここにいてはどうですか?」
「いいの...?」
「駄目ならこんな話を持ち掛けませんよ。ゆっくりして行って下さいまし。」
「ありがとう!」








このような経緯でヒメ様は私達の屋敷にしばらく滞在することになりました。ヒメ様はクダリともすぐに仲良くなり、私の使い魔であるシャンデラやオノノクス達もよく懐いておりました。
ヒメ様が来てからこの屋敷は明るくなったように感じます。少しお転婆で抜けた所はありますが、そんな彼女も天使としては非常に優秀であると。

「あのね、天使は髪の毛と目の色で魔力の多さが分かるの!」
「そうなのですか?」

ヒメ様は細くきらきらと光を反射して輝く銀髪と、蜂蜜のようにとろりとした黄金色の美しい目をお持ちでした。この色が天界では魔力のステータスであるということなのですね。

「魔力が高いと出来ることも多いんだよ。」
「例えば?」
「ええと、ノボリ今怪我してるところとかある?」
「私はありませんが、クダリが確か昨日ポケモンに引っかかれたと言っておりました。」
「クダリー!きてー!」

少し大きな声でヒメ様がクダリの名前を呼ぶと庭にいたクダリがひょっこりと顔を出しました。

「呼んだー?」
「呼んだ呼んだー!こっちきて!」

ヒメ様の前にクダリを座らせて引っかかれて傷になった腕を出しました。そこに触るか触れないか位の位置に手をかざし、ぐっと力を込めると暖かい光と共にみるみる傷が治っていきました。

「ヒメすごい!」
「素晴らしい!」
「えへへー、すごいでしょー!」
「自分の怪我は治せないの?」
「治せないの。治せるのは他人の怪我だけたの。」
「色々難しいんだねぇ。」

ぎゅうぎゅうとクダリは抱き締め、私はさらさらの髪の毛を軽く撫で付けるように触れました。
私はこの幸せな日常がずっとずっと続くと勘違いしていたのです。








「そろそろ羽治ったかなぁ?」
「...どうでしょうか、」
「ちょっと飛んでみるね!」

ぱたぱたと庭へ掛けて行くヒメ様の背中を追いかけました。庭の真ん中でばさりと羽を広げて彼女は地面から少し宙に浮きました。そのとき私は彼女が私達の元からいなくなってしまうという焦燥感に酷く駆られたのです。

「わあっ!まだだめかー...」

それ以上はうまく飛べずにぺたりと地面に腰を下ろしました。私がその瞬間どれだけ安堵したことか!
その時私は初めて気づいたのです。



決して私達人間が愛してはいけない方を愛してしまったのだと。





花冠

(神様、どうかこの愚かな私をお許し下さい。)

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