50000hit project | ナノ

犯行声明






「はぁ.........」




思わず溢れ出た深いため息は静まった部屋へと溶けて行った。
最近の私はついてない。
いや、ついてないで済ませるには事が大き過ぎる。






まずは仲の良かった友人から始まった。
彼女は私が彼女の恋人を寝取ったと言った。もちろんそんな事をするはずがない。だって私にはノボリさんという恋人がいるからだ。確かに彼女の恋人とは面識があったが、そもそも連絡先すら知らない。彼女は私の頬を叩いて縁を切ると吐き捨てた。


その次は仕事だ。
私は大手企業で営業をしている。自分で言うのも何だが良い成績である方だと思う。大きな取引もいくつも経験してきたし、それなりに部下もいる。
この間、私の会社が新しい事業に着手を始めるのでその大事な取引先との会談があった。それを任されるという非常に有難いことだった。実際取引はうまく行ったし何も問題ない、はずだった。取引先から私の態度と提出した資料に問題があったと。そんな訳ない。だってしっかり練った資料だし、態度も問題なかったはずた。社内では私の降格が下るらしいと専らの噂だ。

終わったことを気にしても仕方ない。
軽く背を伸ばしてベットに潜った。明日からまた一からやり直そう。そう思って目を閉じた。






...そんな私の思いは砕け散った。

出社してすぐに人事部に呼ばれ、人事部長から解雇命令が下った。原因はやはり先日の取引先の件で、向こうが私の解雇と業務提携を交換条件に出して来たらしい。私はどうやら先方の逆鱗に触れてしまったらしい。それは会社としての決断は一択しかない。


行く時よりも更に重くなった身体を引きずって家に着く。
するとマンションの下で管理人さんに会った。軽く挨拶をして部屋に行こうとした。少しでも早く部屋で休みたかった。

「引越し先は決まりましたか?」
「...?」

何のことか全く分からずに首を傾げると、呆れた様に一枚の紙を差し出した。手に取って目通した。そこには私が住んでいるマンションが買収されて別の建物が建つらしい。だから引越し先を見つけてくれ、と。紙の最後の部分には二週間前の日付が刻まれていた。おそらくポストに入れられていたであろうこの紙切れは、仕事が忙しい私の目に今日まで止まることはなかった。部屋を出て行く期限は今日だった。引越し先なんか決まっている訳がない。でも管理人さんは見ていなかった私が悪い、今すぐ出て行ってくれとしか言わなかった。

私にはもう何もない。
いや、最後にひとつだけある。ひとつしかない。
ノボリさん、私の大切な恋人。
会いたい、今すぐに会いたい。
私はそのまま走ってギアステーションに向かった。縺れる足を叱って少しでも早くと。



ギアステーションに着いてノボリさんを探した。この人の多いギアステーションで、尚且つサブウェイマスターなんてすぐに見つかる筈がない。焦る余り目の前に迫っている人を避けることが出来なくてぶつかってしまった。

「すみません...!」
「...ヒメさん?」
「クダリさん、」

私がぶつかったのはノボリさんの弟のクダリさんだった。

「ヒメさんがここに来るのは珍しいですね。兄さんが中々来てくれないって言ってたから。」

にっこりと誠実そうな笑みを浮かべて彼は言った。

「えぇ、まぁちょっと...」
「兄さんのところに案内しますよ。」












さて、そろそろいらっしゃる頃でしょうか。
コーヒーを片手に私は待っておりました。

「兄さん、ヒメさんが来たよ。」
「おや、これは珍しいですね。」
「ノボリさんっ...」

私の姿を見るなりヒメ様は飛び付いて泣き始めました。今まで思い詰めていたのが張り裂けたのでしょうね。それでもここまでそれを崩さずに気丈に振る舞う様はなんと美しいのでしょう。

「どうしたのです...!?」

クダリは察した様に、静かにドアを閉めて出て行きました。なんとも出来た弟ですこと。
私の腕の中でヒメ様は泣きじゃくりながらこれまであったことを話して下さいました。
...全て私が手引きしたこととは知らずに。なんと脆く愛らしいのでしょう。
このライモンシティでサブウェイマスターという地位を振りかざして出来ることは非常に多くあるのです。

「それは辛かったでしょうね。ですが、もう大丈夫でございますよ。私が全てから守ります。」
「...ノボリさん、」
「私の家で一緒に暮らしましょう。ヒメ様はまた一から歩み始めるのです。今あるものは全てあの家に置いて行きましょう。」

そう。
私が望んだことは彼女の全てを私が構成すること。私はヒメ様の全てが欲しい。欲しくて止まないのです。そのためにご友人の手引きをしたり、取引先を仕掛けたり、マンションの買収を行ったりしたのです。
だってそうすればヒメ様は私を頼らざるを得ないでしょう?あの家を捨てるということはまた新しくヒメ様の身の回り品などを買わねばならない。私が全て買って差し上げることが出来るのです。それに今弱り切っているヒメ様を私の手中に収めるて私に依存させることなど非常に容易いことでしょうね。
ああ!なんと素晴らしい!
こんなに簡単に叶うのであればもっと早く実行に移すべきでした。

「ね、ヒメ様...?」
「はい、」




(犯行声明)
「ヒメ様、只今戻りました。」
「ノボリさんおかえりなさい!」
「良い子にしていましたか? 」
「はい、言われた通り一歩も外に出てませんよ!」









***
藍歌様からのリクエストで、アニノボ→→→→→夢主でアニノボさんが夢主に怖いくらい一途でドロドロした愛情表現をするお話でした!
大変お待たせして申し訳ありません...!
アニノボさんって追い詰めるならとことん追い詰めるという勝手なイメージがあったので、主人公を孤立させて手中に収める流れにしました。お気に召して頂ければ幸いです^^







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -