05
「クダリに今のヒメの状況をお話ししても宜しいでしょうか?」
酷く思い詰めた様な顔をしてノボリさんは言った。私のこの姿を見て状況を話さないと言うのは無理があること位理解出来る。こくこくと頷くと、少し表情を和らげてありがとうございます、と笑った。
でも私はとっくにクダリさんに話しているものだと思っていた。ノボリさんとクダリさんはとても仲が良い兄弟だというとは知っていたし、お互いを信頼しているのは見て取れる。だから意外だった。クダリさんはどうしてノボリさんの格好や喋り方で此処に来たんだろうか?もしノボリさんに用があって来たのであればそんなことをする必要はないのに。そんなことを考えていたら急激に睡魔が襲ってきた。ああ、駄目だ。最近多くなってきたなぁ。段々と瞼が落ちていく。
「そろそろ寝ましょうね。ヒメ、ずっと一緒にいて下さいまし。」
そんなの私だってそうだ。ノボリさん以外に大切なものなんてない。ノボリさんさえいてくれれば何もいらない。私もです、と口を動かすとノボリさんは愛しています。と優しい声で答えてくれた。私はとても満たされた気分で意識を手放した。目が覚めても夢の中でもノボリさんのことだけを考えていたい。
「クダリ、お話ししたいことがございます。」
「うん、僕も。」
僕らの専用の執務室で書類事務をこなしているとノボリが声をかけてきた。やっと、やっとだ。喉から手が出るほど聞きたかったけどノボリから話してくれるのを待っていた。
「クダリが見たのは間違いなくヒメです。」
「...」
「原因は全く分かりません。ある日突然あの姿になりました。」
「元に戻れないの?」
「分かりません。」
「何か調べた?」
「いいえ、」
「え?」
ちょっと待って。どうして?
普通は大切な人の姿が変わってしまったら、その原因を調べたりするよね?ポケモンの可能性だってあるかもしれないし、元に戻れる方法もあるかもしれないのに!
「何で、調べないの?」
「必要がないからです。」
「...は?」
「そうでしょう?私とヒメはこのままで良いのですから。」
「............。
あのさ、ヒメを海へは連れて行かないの?だって、人魚がずっと水槽で生きるなんて無理だよ!」
「ふふ、クダリは可笑しなことを言いますね。もしヒメを海に連れて行けば私達離れ離れになってしまうではありませんか。ヒメだって私とずっと一緒が良いと言ってくれたのです。」
ノボリは幸せそうに笑った。おかしい。こんなの間違ってる。だって...
「それが、それがヒメ命を縮めることになっても...?」
「ええ。私達はずっと一緒ですから。」
寸分の迷いもなくそう答えを返してきた。
狂ってる、ノボリは狂ってる。
ヒメの姿が変わったことがノボリ自身も変えてしまったんだろうか。でも、ヒメが少しでも生きられるなら僕は助けた「クダリ、」
「クダリといえど私達の邪魔をするようであれば一切容赦は致しませんよ。」
氷の様に酷く冷たい声だった。決して冗談でも脅しでもない。もし僕が手出しをすれば間違いなくノボリは僕のことを殺すだろう。生まれた時からずっと一緒にいるからだろうか、そんな確信があった。
僕はどうすれば良いのだろうか。