04


ノボリの様子が変わった。
たぶんヒメの絡みだろうってことはすぐ察しがついた。だってノボリが執着することといえばヒメのことしかないもん。最近ヒメがギアステーションに顔を出さなくなったのと、ノボリの機嫌が物凄く良くなったのはほとんど同じ時期だった気がする。


僕とノボリは昔から少し愛し方が歪んでいた。
花に例えるならば、ノボリは大切にしたくて水や肥料をやり過ぎて枯らしてしまう。僕はたくさん構い過ぎて手折ってしまう。それはお互いよく理解していた。

ヒメはとっても良い子。だからもしヒメが辛い思いをしているなら、ノボリには悪いけど僕が助けてあげなくちゃ。その日はノボリより早く仕事を終わらせて、黒いコート、スラックス、制帽をこっそり持ち出してそれを着てノボリの家に向かった。合鍵はお互い渡してあるから入るのには困らない。そっと玄関のドアを開けた。リビングに入ると大きな水槽があった。何か熱帯魚でも飼い始めたのかな?
...僕は自分の目を疑った。

「ヒメ...?」

水槽の中で眠っていたのはヒメにそっくりの人魚と傍に寄り添うシャワーズだった。ヒメ...なワケがない。だってヒメは間違いなく僕らと同じ人間だ。ぱちりと開いた大きな目と視線が交差した。にっこりと笑っておかえりなさい、と口を動かした。

「ただいま...戻りました。」

僕はどうしても信じられなかった。水槽の中に手を入れるとその女の子が綺麗な尾びれを揺らしてすりすりと頬を寄せた。その仕草もヒメにそっくりで、
確かめたくて僕は女の子の両脇の下に手を差し入れて水槽から彼女の上半身を持ち上げた。途端に苦しそうな表情になって、口はぱくぱくと求めるように動いた。君はだぁれ?ヒメなの?苦しいの?声が出ないの?どうしてここにいるの?そんなことが現状を把握し切れない僕の頭の中で駆け巡った。

「デンチュラ、エレキネット。」

シャワーズが水槽から出て僕に攻撃して来ようとした。それをデンチュラで止めた。そんなに時間は経っていないはずなのにとても長い時間に感じられた。僕の思考を遮ったのは玄関が開く音と近付いてくる廊下を歩く足音だった。ノボリが帰ってきたみたい。リビングのドアを開けたノボリの目が見開かれて僕と抱えたままの女の子を捉えた。

「っクダリ!貴方何をしているのです!」

珍しく声を荒げて、僕の手から女の子を取り上げて水槽の中に戻した。女の子は水槽の中に戻りひどく怯えたような表情でこちらを見ていた。

「クダリ、申し訳ありませんが今日は帰って頂けますか?」
「ひとつだけ教えて。その子はヒメなの?」
「...えぇ。」
「そう、分かった。ヒメ、ひどいことしてごめんね。」

ノボリがヒメに話しかけているようだったけれど、放心状態の僕の耳には何も入ってこなかった。うそだ。なんでヒメがあんな姿に。

その日の夜はヒメの姿が瞼の裏に焼き付いて眠れなかったんだ。


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