スカーレットライン

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カラカラ、と音を立てて入り口の扉を開けた。そこで僕の目に入って来るのは色とりどりの着物達。ああ、また新しい着物が入荷しているのか。染め方が素晴らしいな。僕も和服は好んで着ているからとても心踊る。引き戸の音で奥から優しそうな女性が出て来た。

「あら、マツバさんいらっしゃい。」
「ご無沙汰しております。」
「あの子今準備してるからちょっと待ってね。ユキー!マツバさん来たよー!」
「はーい、」

店内にある椅子に座って彼女が来るのを待った。しばらくすると軽い足音とと共に綺麗に着付た彼女が出てきた。今日は深い京紫色のグラデーションの着物だった。軽く巻かれた長い髪の毛は簪でまとめて片側に流されている。

「待たせてごめんなさい。」
「待ってないよ。それより今日の着物もよく似合うね。」
「ふふ、ありがとう。この京紫色ってマツバみたいじゃない?」
「そうかな?」
「えぇ。マツバもよく似合ってるわ。この間私が選んだやつね。」

そう。今日僕が着ているのは彼女が選んでくれた、濃紺の着物。その着物を止める灰色の帯もとても気に入っている。僕の彼女は昔からエンジュシティにある舞妓さんたち御用達の呉服店の娘さんだ。ユキのお母様に挨拶をして店を出た。そうして僕らがいつも向かうのはスズねの小道だ。秋にはたくさんの紅葉が道沿いを走る、エンジュシティでも自慢の場所だ。

そこに着くといつものように手持ちのポケモン達を出す。僕はゲンガーとムウマージ。ユキは昔から連れているフワライドと、ジョウト地方の友人からもらったというヒトモシ。ユキもゴーストタイプが好きで手持ちはほとんどがゴーストポケモンだ。ポケモン達はそれぞれ自由に遊んだり四季を楽しんだりしている。ただヒトモシだけはまだ卵から孵ったばかりかユキのそばにいることが多い。

そこで僕たちは何をするわけでもなくただ同じ時間を過ごす。くだらないことを話したり、ポケモン達と遊んだり、お茶を飲んだり。そんな時間が僕にとってかけがえのない時間だった。
ユキは優しい目つきで戯れているポケモン達を見ていた。思わずその美しい横顔に目が離せなくなった。

「なぁに?」
「いや、君は出会った時から綺麗だなって思ってね。」
「もう、いきなり何言ってるのよ...」

普段は平然と愛を囁くのに、不意打ちに弱いユキは赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いた。流れる黒髪が僕を誘う。くるりと指を絡めて彼女の細い腰を引き寄せて口付けた。しばらくそのままでいると僕の腹部に軽いが走った。名残惜しくも唇を離して衝撃の方を向くとユキのヒトモシがポカポカと叩いていた。どうやら表情から察するにやめろってことか。

「こら、ヒトモシ。駄目よ。」

ひょいとユキの膝の上に戻された。ああ、このヒトモシオスだったかな。ヤキモチってことか。残念だったね。ユキは僕のだよ。なんて、生まれたばかりのポケモンに対してなんてことを、と思わず失笑してしまった。

「どうしたの?今日のマツバなんだか変だわ。」
「どうやら僕は思ってる以上に君のことが好きみたいだ。」
「私も大好きよ。...それよりそろそろノボリさんとヒメちゃんが来るんでしょう?」

上手く話を逸らしたな。
そう。今ユキが言った通り、今日はイッシュ地方からノボリさんとヒメが旅行でこのエンジュシティになっていた。ヒメはこの場所を知っているから迎えに行かなくても大丈夫だろう。
ちょうどタイミングよくフライゴンの鳴き声が空から落ちてきた。フライゴンは確かヒメが移動用に連れていたポケモンだったな。





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