琥珀を喰らう

「っひ、ぅ、あ、クダリ、さんっ、」
『もしもし?ユキ?』
「わたし、もっ、どうしたらいいか...」
『今どこ!?すぐに行くから!』







私何してるんだろう。
ぼんやりと公園のベンチに座って働かない頭で考えてみる。クダリさんに泣きながら電話してからここまでどうやって来たんだろう。覚えてないや。クダリさんにも迷惑かけてる。ごめんなさい。

「ユキ!」

向こうからクダリさんがこちらに走ってくるのが見えた。なんだか一人ではないことにとても安心してまた涙が零れ落ちた。

「ここじゃ寒いからあったかいところに行こっか?」

きっとぐしゃぐしゃの私の顔を考慮してか、そう声を掛けてくれた。もう時間も時間だったので私の家に行った。クダリさんは私の恋人の双子の弟さん。以前からよく相談に乗ってもらったりする間柄なのだ。







「それでどうしたの?」
「あの、その、私見ちゃったんです。」
「ん?」
「ノボリさんが女の人とホテルに行くところ。」
「あー...」

一頻り思う存分に泣いたお陰でだいぶ頭は冷えてきた。今は沸々と怒りが湧き上がってくる。
そう。今日はノボリさんは仕事で遅くなると言っていた。私は旧友と久しぶりに会った帰りだった。やたらと蛍光色が目に付くホテルに入って行くノボリさんと知らない女の人を見たのだ。そこがどんなことをするホテルなのか知らない程私は子供じゃない。仕事で遅くなるって言ってたのは?嘘?その人誰なの?どうして?いつから?私の頭は容量オーバーでパニックになり、クダリさんに泣き付いてしまった有様だ。

「あのね、ノボリが頼まれ事とかを断れない性格なのは知ってるよね?」
「...」
「あの人にしつこく告白されてた人みたいなんだ。それでそうなったんだと思う。」
「あり得ない...」

そりゃあノボリさんが誰にでも優しくて頼まれたことは断れない性格なのは分かっている。それでも恋人がいて他の女の人とホテルに行くっていう神経は疑いたくもなる。

「でもね!ノボリがちゃんと自分から告白したのはユキだけなんだよ。いっつも職場でユキのことばっかり話してるし、ユキのこと一番大切に思ってるんだよ。」
「そんなこと信じられないです...」
「そうだよね...今回ことはほんとにノボリが悪い!それは僕からもちゃんと言っとく!だからもう一回ノボリのこと信じてあげてくれないかな...?」
「考えてみます。」
「ありがと。もしノボリと別れたらユキのこと僕がもらっちゃうね?」
「ふふっ、何言ってるんですかっ、」
「やっぱりユキ笑った方がかわいーね。」

ちゃんとノボリには言っとくから、もう一度そう告げてクダリさんは帰って行った。いっぱい迷惑をかけてしまったけれど、クダリさんに相談して良かったな。一人だったら押し潰されていたかもしれない。今度しっかりお礼をしなくちゃ。まだもやもやは晴れないけれど、少しだけ気持ちも軽くなったことだし温かい飲み物でも入れようかな。








***

情事を終えて、ベットの上で断り切れずにこうなってしまったこと、ユキへの罪悪感に苛まれているときでした。クダリから電話が入りました。こんな時間に何でしょう?

「はい、」
『今から僕が言うことちゃんと聞いて。』
「クダリ...?」

珍しく怒っているようなクダリに、一瞬まさかという予感が頭を過ぎりましたが、無理矢理そんなことはないと言い聞かせ続きを待ちました。

「今日ノボリがあの人とホテルに入るところユキが見てた。」
「...!」

想定出来うる最悪の自体に鈍器で頭を殴られたような衝撃と、血の気がさぁっと引いて行く感覚がしました。まさか、そんなことが...

「すっごく傷付いてた。可哀想なくらいいっぱい泣いてた。」
「そう、ですか。」
「ノボリがいつまでもそんなことばっかり続けるんだったらユキは僕がもらう。」
「クダリ!」
「だってどう考えてもノボリが悪いでしょ?ユキに捨てられちゃうかもね?」
「...っ!」

一方的に電話を切り、ベットから飛び降りました。ユキのところに行かなくては。驚いたようにこちらを見ていた彼女にはもうこれから二度と会うことはない旨を伝え、その場で連絡先も削除しました。何か言っている様でしたが、私は一刻も早くユキの元に向かいたいのです。もう彼女からそういったお誘いがあっても絶対会うことはないでしょう。
ホテルを飛び出しタクシーを捕まえ、ユキの家の方面を伝えました。タクシーが進む速度にここまでもどかしいと思ったのは初めてでした。
ユキの家の前に着いて、震える指先を叱咤しインターホンを押しました。

「はい...?」
「ノボリです。」
「帰って。...帰って下さい!」
「中に入れて頂けませんか?お話したいことがあるのです。」
「私には何もありません。」
「お願いです。私貴女に会うまで帰れません。」

私が引く気がないと分かったのか重い音を立てて内側からドアが開きました。そこには兎の様に真っ赤に目を腫らしたユキがいました。私のせいでこんなにも悲しませてしまったのですね。耐え切れなくなりユキを抱き締めると、ばちんという音と、少し遅れて頬に痛みが走りました。

「そんなっ、他の女の人の匂いがする体で、触らないで!」

ぼろぼろとまた涙を流しながら、私の腕を振りほどきリビングに掛けて行く彼女を追いかけました。
リビングに入るとユキはソファにうつ伏せで泣いていました。ああ、どうして私はこんなに愛してやまない彼女をここまで悲しませてしまったのでしょうか。きっと信頼は失ってしまいましたが、私はそれでも諦められません。彼女の前で私はフローリングに額を付けて頭を下げました。

「クダリに聞きました。申し訳、ありません...!私の不徳の致すところでございます。弁解の余地もありません。ですが、私は今回の自分の過ちでどれだけ貴女を愛しているかを思い知ったのです...!」

少しでも貴女に伝わる様に。私はまだまだ貴女も一緒に時間を過ごして行きたいのです。彼女を見上げると困惑した色が瞳の中に見え隠れしていました。

「もう二度と、二度とこんなことはしないと誓います。ですから貴女の側にいさせて下さい。貴女がいないと息が詰まって苦しくて仕方がないのです。」
「今回、だけです。次はもうありませんから。」
「っユキ...!ありがとうございます...」
「それより早くお風呂に入ってきて下さい!」
「えぇ、お借り致します。」
「それでっ、早く上がって、ぎゅってして下さいっ」

ああ、そんなに可愛らしいことを言わないで下さいまし。私どうにかなってしまいそうでございます。
こんな私を許して下さってありがとうございます。私は本当に愚か者だったのです。誓いの意味を込めて彼女の薬指にひとつキスを落としました。これからずっと貴女だけを愛し続けると誓います。




琥珀を喰らう
(ユキをもらうっての半分は冗談じゃなかったんだけとな。)








***
こん様リクのノボリ切甘でしたー!
実は切甘系は書くのが初めてだったのでちょっとどきどきしてます...!素敵な設定を頂きありがとうございました^^お気に召して頂けたら幸いです!企画にご参加ありがとうございました(*´∀`*)





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