「あのね、さっきのところはボルトチェンジ使うタイミングじゃない。」
「はい...」
「ヒメが技を指示するのに戸惑ったりするとポケモン達だって不安になるから狼狽えちゃだめ。」
「はい...」
「そろそろホームに着くからまたね。」

トレインのドアが開くと、白いコートを颯爽と翻して降りていくクダリさん。
ダブルトレインに挑戦して、今日もクダリさんに負けた。何回行っても勝てない。いつもホームに向かう時間でアドバイスをくれるけど、それが続くとなると結構凹むのだ。
黄色い声が聞こえてきて、ふと顔上げると可愛らしい女の子がクダリさんを待っていたようだった。

「クダリさん!私今からトレインに乗るので待ってて下さいね!」
「うん、最終車両で待ってるね!」

にっこり笑って返事をするクダリさん。私にはあんな笑顔見せてくれたことなんてないのに。それに何ヶ月間も通っているのに未だにスーパーダブルトレインに進めない私は才能もてんでないのだろう。もうそろそろサブウェイに挑戦するのも、私の片思いも潮時かもしれない。そんなことをぼんやりと思いながらトレインを降りた。





トレインを降りて執務室に戻ると、ノボリがいた。ちらりとこっちを見て、はぁ、と溜息を吐いた。

「クダリ、あなたどうしてヒメ様にだけ冷たいのです?」
「...」
「それに先程のバトル見ておりましたが、もうヒメ様はスーパーダブルに行く実力は十分にあるでしょう?」
「...」
「私に言われなくとも自分で気付いておりますね?」

痛い所をじくじくと突かれる。ノボリが言ってることは全部正解。だって僕自身だってどうしていいかわかんないのに。

「気付いてるよ。僕今まで誰かを好きになったことなんてなかったから、ヒメにどう接していいかわかんない。いつも心臓がばくばくして頭が真っ白になる。」
「えぇ。」
「それに、ヒメが強くなってもうスーパーダブルに行けるのは知ってるけど、スーパーダブルに行ったら僕のところまで中々辿り着けなくて会える機会が減っちゃうもん。」
「そこまで分かってるのであれば、もう一踏ん張りではございませんか。私も応援しておりますよ。」

いつも下がった口角を少しだけ上げてノボリが言った。僕も今まで溜め込んでいたことを一気に吐き出したせいか、気持ちの整理が多少出来た気がする。シングルトレインの点検に行ってきます、とノボリは執務室を出て行った。










ダブルトレインを降りて、そのままぼんやりと歩いていたらいつの間にかシングルトレインのホームまで来ていた。とりあえずベンチに腰掛けて、ふぅと息を一つ吐いた。

「おや、ヒメ様ではありませんか?」

名前を呼ばれ振り向くと、そこにはクダリさんと色違いのコートを着たノボリさんが立っていた。とっても失礼な話だが、今は同じ顔をしたノボリさんを見るとクダリさんを思い出してしまって胸がずきりとした。

「ノボリさん、こんにちは。」
「こんにちはでございます。お隣宜しいですか?」
「勿論。」

少し横にずれてノボリさんが座るスペースを空けた。どうしたんだろう?珍しいな。

「浮かない顔をしている様ですが何かあったのですか?」
「え?あぁ、そうですね...」
「私で宜しければお聞き致します。」
「あ、ありがとうございます。」

平静を装っていたつもりだが、上手く出来ていなかったみたい。一瞬迷ったがぽつりぽつりと切り出した。

「あの、私ずっとトレインに挑戦してたんですけど、いつまで経ってもスーパーダブルに進めなくて。ポケモン達も頑張ってくれてるのに情けないです。なので、もうそろそろ挑戦するのは辞めようかなぁって思ってるんです...サブウェイマスターさんの前で言うことではないんですけど、ごめんなさい。」








ど、どうしよう!
ヒメが此処に来なくなっちゃうのなんて絶対やだ!
ノボリがインカムを持って行くの忘れてたから届けに来たら、この場面に遭遇してしまった。ヒメを追い詰めてしまったのは僕だ。ちゃんと言わなきゃ。なのに僕の足は竦んでしまって動かない。

「だそうですよ、クダリ。このままで宜しいのですか?」

ノボリの声にびくりと肩が跳ねた。僕が此処にいるの気付いてたんだ。その声に弾かれたように足が動いた。びっくりしてるヒメの前まで言って、僕より一回り小さな手をぎゅっと握った。ノボリは静かに立ち上がりどこかへ行ってしまった。ありがとうノボリ。ちゃんとあとからお礼言うね。それよりも今は僕の目の前にいる大切な人だ、

「あのね、ヒメ。今までごめんなさい。ヒメはバトルのセンスあるよ。でもね、ヒメがスーパーダブルに行ったら今みたいにたくさん会えなくなるのがいやだったの。」
「クダリさん...」
「ヒメの前だとドキドキしていつもみたいに上手く話せなくて、冷たい態度になっちゃってたのも謝る。あのね、あのね、僕ヒメのことが大好きなの。」
「わ、私も大好きですっ」

ヒメの目から涙がぽろりと一筋伝った。その涙をぺろりと舌で拭って、そのままヒメを抱き込めた。もう此処がホームだとかそんなことはどうでも良かった。大好きな人が同じ気持ちを返してくれることがこんなに幸せでいっぱいになるって知らなかった。

「これからはいっぱいいっぱい大切にするから覚悟しててね!」
「はいっ!」

まだ涙が少し溜まった目でふわりと笑うヒメが可愛くて愛しくて堪らなくなった。抱き締めたままキスを小さく落とした。

僕のものなんだから、絶対に離してあげないから!






でたらめな恋模様
「ねぇねぇ、ヒメ!膝枕して!」
「此処仕事場ですよ?だめです。」
「えー!じゃあおうち帰ったらなら良い?」
「...良いですよ。」


「ヒメさんと付き合い始めてから白ボスご機嫌ですねー」
「えぇ、幸せそうで何よりでございます。」






*****
匿名様に頂いた、本当は好きなのに素直になれない意地悪クダリ甘夢でしたー!
なんだか意地悪要素が少なくて申し訳ありません(;_;)お気に召して頂けると嬉しいです...!
企画に参加して下さってありがとうございました!



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