ノスタルジックガール | ナノ

48


「あれ?カミツレさんから電話だ。どうしたんだろ?」
「急ぎかもしれないし出たら?」
「ありがと、ちょっとごめんね。」

今日のランチはヒメと5番道路にある美味しいと評判のワゴンのホットサンドを食べに来た。ノボリさん達も来たがってたけれど、二人は車両点検に立ち会わないといけないから一緒に来れなかった。ノボリさんはすっごく心配性だしヤキモチ妬きだからあんまりヒメを一人で外出させたがらない。だから自分が付き添えないときは僕かクラウドさんを付き添わせる。信頼してもらえてるみたいで光栄なことだ。

「はい、今大丈夫です。...今ですか?カズマサと5番道路のワゴンにランチに来てますよ。...え?真っ直ぐギアステに戻っちゃだめ?はあ、」

何だろう。なんかよく分からないけど大変そうだな。モデルの仕事のことかな?ヒメの話し声を聞きながら、ウォーグルに木の実をあげていた。すると僕のライブキャスターも鳴り始めて、着信を見るとクダリさんだった。仕事のことかもしれないと慌てて出た。

『カズマサ!ヒメは!?』
「ヒメなら今カミツレさんと電話してますよ。」
『あー、だから繋がんなかったのかー!』
「どうかしましたか?」
『あのね、ギアステに戻って来る時は裏の職員用入口から入って来て!正面から来ちゃだめ!』
「はあ...」
『あと、ウォーグル連れてる?』
「はい、連れてます。」
『じゃあ裏口ギリギリまで空を飛ぶで来てね!ぜったい!』
「わ、わかりました。」

一体何なのだろうか。
うーん、と頭を捻っていると、カミツレさんとの電話が終わったヒメが隣に腰掛けた。

「クダリさんだった?」
「うん、なんかギアステに帰ってくる時は裏口から入って来いだって。」
「カミツレさんも同じようなこと言ってたんだよね。」
「よく分からないけど、そろそろ帰ろうか。」
「だね。」


ウォーグルの背中に二人で乗ってギアステを目指す。ある程度の所まで高度が上がると、僕は目に入ったものに驚いた。

「ヒメ!あれ!」
「あー...なんか嫌な予感がするなぁ...」
「僕も...」

僕らが目にしたのは、ライモンジム、遊園地、スタジアム、ミュージカル前にたくさん並んだカミツレさんの新ブランドの広告だった。もちろん大きく写っているのはカミツレさんとヒメだ。そろそろ発表するとは聞いていたけどこんなに早いとは。ランチに行く時は表通りを通らなかったから気付かなかったんだ。
重くなった気分を抱えて職員用入口に降り立った。そっと、ドアを開けて執務室に戻ると、人がいなくモニター室から声が聞こえていた。そちらに向かうと皆がモニターを見ていた。

「おお!無事に帰って来たか!ボス達もえらい心配しよったからなあ。これ見てみい。」

気付いたクラウドさんが僕らに声を掛けた。他の鉄道員達からも次々と安堵の声が上がった。モニターを見るとバトルサブウェイのホームに大量の取材陣と一般客であろう人達が見えた。いやいや、多過ぎだろう。そして恐る恐るヒメが口を開いた。

「あの、これってもしかしなくてもあの広告...のせいですよね...?」
「んー、そうみたいやな。少し前に貼り出されたらしいんやけど、それからカミツレさんの事務所の問い合わせが殺到しとる。」
「うわ...」
「それからネットでヒメが此処で働いとる情報が出回ってこっちにも殺到しとる状況や。今ボス達が対応で出とる。」

ネットの情報網は恐ろしい。確かにここまで人が殺到すると一鉄道員では対応難しいから責任者のボス達が行ったんだろう。ヒメを見ると泣きそうな顔をしていた。

「ヒメ?」
「ご、ごめんなさい。私のせいでこんなに迷惑かけちゃって...」
「いやいや、どう考えてもヒメのせいちゃうちゃう!何も気にせんでええんよ?それにちゃーんとボス達が対応しとるから心配せんでええ。」

ぐりぐりとクラウドさんがヒメの頭を撫でる。クラウドさん相変わらずお兄ちゃん気質だなあ。クダリさんより大分お兄ちゃんらしいのでは。そんなことはクダリさんには口が裂けても言えないけれど。
そんな中、中々引き下がらない取材陣や一般客にボス達もそろそろ限界が来てそうだ。僕らはモニター越しにそれを見つめていた。


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