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違和感を覚え、目を開けるとそこにはいつも私の腕の中で気持ち良さそうに眠っているヒメがおりませんでした。枕元の時計を見るとまだ深夜でした。
「一体どこへ、...?」
トイレかもしれないと思いしばらく布団の中で待ってみるも帰ってくる気配がありません。不安が過ぎり、私はひやりとしたフローリングに降り立ちました。私は今までは一度眠ると朝までぐっすりだったのですが、いつから彼女がいないと目が覚めてしまうようになったのでしょうか。満更でもない自身に自嘲気味に笑みを零し、廊下を歩く足を早めました。
少しだけ開いているリビングのドアから中を覗くと、そこに彼女はいました。ベランダに出て小さくしゃがんで空を見上げていたのです。暖かくなってきたとはいえ、こんな深夜にシャツ一枚で外に出るのはまだ早過ぎます。ですが、傍には私のシャンデラと彼女のヒトモシがいて彼女を暖めているようでした。リビングに置いていたボールから出てきたのでしょうね。
闇夜にぼんやりと浮かび上がる彼女の姿は何かの絵画のようでとても美しかったのです。その入ってはいけないような空間に、声を掛けるのを躊躇しているとシャンデラが私に気付き彼女に教えました。
「ノボリさん...」
「何処へ行ったのかと思いましたよ。」
「ごめんなさい。今日は流星群が見れるってカズマサが教えてくれたから見たかったんです。」
「それは構いませんが、いくらシャンデラ達がいるとはいえ風邪を引いてしまいます。」
ソファに掛けてあったブランケットを持ってきて彼女ごとすっぽりと包みます。シャンデラ達はいなくなっていたので、ボールへ自ら戻ったのでしょう。彼女を後ろから抱き締めて私も座り込みました。
「私もお供致します。」
「起こしちゃってごめんなさい。」
「お気になさらず。私本物の流星群を見たことがないのです。一人であればわざわざ見ようと思わないのですが、貴女といると見たことがなかったものを見たいと思うのです。」
「ふふ、そういうのってすごく嬉しいですね。」
ことん、と私の胸元に頭を預けて言いました。それは私が一番驚いています。今までポケモンと電車にしか興味がなく、理解者もクダリだけいれば良いと思っていたからです。こんなにも自分が変われるとは。
「ノボリさん!見て!」
空を見上げると次々と流星群がいくつもの線になって降り注いでいました。素晴らしい...!流星群とはこんなにも美しいものだったのでございますね。
「すごい...!」
ヒメもすっかり目を奪われているようでございました。今まで触れたことがないものを目にするのは大変新鮮で世界が広がるのですね。
「これだけたくさん見えたらひとつくらいは願い事を叶えてくれそうですね。」
「そうでございますね。」
「ノボリさんは何をお願いしますか?」
「秘密、でございます。」
「えー!」
私が願うことなどひとつしかないでしょう?
愛していますよ、ヒメ。