ノスタルジックガール | ナノ

44


レイカ様に恋人がいるかどうかを聞かれた時に、私はいないとお答えしました。彼女が私に薄っぺらい好意を抱いているのは存じておりました。以前にもその様な方は沢山いたのです。私とクダリの外見、地位、財力しか求めていない方々が。しかし、その方々は私の恋人や仲の良い女性へ敵対心を抱き排除しようと致します。私のエゴだというのは十分に理解しております。それが彼女に寂しい思いをさせていることも。それでもヒメを守りたかったのです。





レイカさんが来て一週間と少し。やっぱり私はあまり好かれていないみたい。私何かしたのかなぁ。ぼんやりと考えながらシングルトレインへ続く階段を降りていた。
その時、後ろから大きな手に背中を押される感覚と、それに続いて臓器が無理矢理持ち上げられる浮遊感に襲われた。あ、まずい。落ちちゃう。意外に私の頭はそれを冷静に処理していたみたいだった。

「ランクルス!」

腰に付けたモンスターボールが揺れてランクルスが出てきた。私が言いたいことをすぐ理解してくれたみたいで、サイコキネシスで浮かしてうまく着地させてくれた。でも着いた足に鈍い痛みが走った。押された時に右足首を捻ってしまったみたい。しゃがみ込んでいると私に影が落ちてきて、顔を上げるとノボリさんが立っていた。

「ヒメ?どうしたのです?」
「あ、ノボリさん。あの、ちょっと、足を捻ってしまったみたいで...」

目を見開いたノボリさんに勢いよく、でも優しく抱き上げられ早足で救護室に連れて行かれた。おろおろしていたランクルスもノボリさんが来て安心したのか大人しくボールに戻った。ふわりと柔らかいベットの上に下ろされる。私のブーツとニーソックスをするりと脱がせて手当をしてくれた。

「ありがとうございます。」
「当然のことです。それにしてもどうして?」
「階段を降りる時に足を滑らせちゃったんです。」
「本当に?」
「本当ですよ。」
「そうですか。危ないですから気を付けて下さいまし。」
「ごめんなさい。」

そのまま抱き込まれた。久しぶりに感じるノボリさんの体温と香りに少しだけ涙が出そうだった。そこにばたん!と大きな音を立ててクダリさんが入ってきた。

「あのね、あの子もう帰るって!明日からいつも通りだよ!」
「あの子とはレイカ様ですか?」
「また急にどうして?」
「わかんない!でも今日仕事終わったら明日ぼくたち3人だから久しぶりにゆっくり出来るよ!」
「そうですね。ヒメ、私は遅番なので貴女達より帰宅するのは少し遅くなりますが、本日は離してあげられそうにもないので覚悟しておいて下さいね?」
「...はいっ!」
ちゅっ、と音を立てて額にキスをされた。今日は腕によりをかけて晩御飯を作らなくちゃと思った。








何なのよ!あの白いやつ!
もうこんなとこにはいられないわ!今すぐ出てってやるわよ!
結局ノボリさんはヒメしか眼中にないじゃないの。いらない。そんな人なら狙ったってしょうがないじゃない!

私が休憩室に一人でいる時にいきなり入って来て、私の頬ギリギリの所の壁に拳を打ち付けた。みしりと壁が軋む音に恐怖を覚えた。

「い、いきなり何なのよ!?」
「ぼく今すっごく怒ってる。さっき階段からヒメを突き落とそうとした男達は君が差し向けたんでしょ?」
「はぁ?何のことよ?」
「ふーん。しらばっくれるんだ。ぼく丁度そいつらが逃げてくとこ見たんだよ。捕まえて問い詰めたらすぐに君のことを吐いたよ。」
「...っ、」

あのバカ達信じられない!本当に使えないわね!

「ねえ、これ以上ノボリとヒメの邪魔しないで?まだヒメに何かするつもりならぼく今ここで君に何しちゃうかわかんない。」

にたりと口をつり上げて、あの笑ってない目でこちらを見ていた。喉元に鋭い刃物を当てられているかのようか錯覚に陥る。

「言われなくてももうここにはいないわよ!今日で辞めるわ!」
「そう?じゃあね、さよなら。」

くるりと背を向けて去って行く白い背中を見ながらどっと汗が噴き出すのを感じて、やっとまともに息が出来たような気がした。今からおじいちゃんのところに行って今日で辞めることを伝えよう。そう思ってその場を後にした。


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