ノスタルジックガール | ナノ

43

「ノボリさんって彼女いるんですかぁ?」
「...いえ、おりません。」


気に入らない。
あの女の存在が気に入らないのよ。
あいつが帰って来た途端、鉄道員達の嬉しそうな顔。どうしてあいつばっかりちやほやされるの?あたしだって今までもてはやされて来たのに此処では一切そんなことがない。

バトルサブウェイの責任者であるサブウェイマスターに興味があった。まだ若くてイケメンで高級取りだなんて付き合ってみたいじゃない?双子で同じ顔だったしどっちでも良かったけど、白い方は子供みたいだしなんだか得体がしれなくて少し怖い。それに比べて黒い方は紳士的で優しいしそっちにすることにした。でも黒い方のノボリさんは私を見てない!ディナーに付き合ってはくれるけれど、いつも違うところばっかり見ているような気がする。

「初めまして、ヒメです。何か分からないことがあったら聞いて下さいね。」
「結構よ。ノボリさんに聞くから。貴女サブウェイマスターの秘書なんでしょ?ノボリさんの担当は私がするから貴女はしなくていいから。」
「...分かりました。」

その女はにっこり笑ってあたしに律儀に挨拶をしてきた。仲良くする気なんて勿論ない。
それから気付いたのはすぐだった。ノボリさんがあの女をとても慈しむ様な目で見ていたから。恋人、もしくはノボリさんの片思いのどちらかには違いない。どこまでも癇に障る女。でもヒメには白いのがべったりだったからノボリさんの片思いの方が濃厚そうだ。
ふと、給湯室に鉄道員達の飲み物を入れに行くのが視界の端に見えたから後を付いて行った。ノボリさんはトレインからの呼び出しで執務室にはいなかった。

「あ、レイカさん。何か入れましょうか?」
「いらない。」
「...そうですか、すみません。」

あたしはヒメがコーヒーの豆を準備したりしているシンクの反対側の少し離れた所にしゃがみ込んで何かを探しているフリをした。そしてトレイにマグカップを乗せたヒメが後ろを通るタイミングを見計らって勢いよく立ち上がった。

「きゃっ、」

狙った通りにヒメにぶつかってトレイがゆっくりとヒメの方へ倒れた。がしゃんと音がしてあたしと反対の色の白い制服がコーヒーやお茶の色に染まった。いい気味ね。

「ごめんなさい!レイカさん!かかってませんか!?」
「え?えぇ、大丈夫よ。」
「良かったー!マグカップも割れてなくて良かったです。」

は?この女おかしい。
真っ先にあたしの心配をして、それから床に転がったマグカップを拾い上げながら割れていないかをひとつひとつ確認している。普通は熱々の飲み物がかかって真っ赤になった手とか、汚れた制服を気にするんじゃないの?

「何の音ー?わ!ヒメどうしたの!?」

給湯室のドアから白いのが覗き込んでいた。ヒメの様子を目にするなり目を見開いた。

「ちょっとぶつかって零しちゃいました。」
「手真っ赤!早く冷やさないと!」

手を引いてシンクまで連れて行って、水道から勢いよく出る水で冷やし始めた。

「大丈夫ですよー、そんなにひどくないですから。」
「もー、大丈夫じゃない!痕になったらどうするの!制服も汚れちゃったし、ぼくが片付けとくから着替えておいで?予備持ってたよね?」
「ごめんなさい。お願いします。」

ヒメが出て行って、あたしと白いのが二人になった。そしてくるりとこちらを振り返った。

「ねえ?まさかわざとヒメにぶつかったりしてないよね?」
「し、してないわよ!」
「ふーん、なら良いけど。」

口元はいつも通りに笑ってるけど、目が笑ってない。やっぱりこいつは得体がしれなくて苦手。しかもあの言い方は勘付いているみたいだ。気を付けないと。ヒメも白いのもことごとく邪魔してくれるわね。



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