ノスタルジックガール | ナノ

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撮影が今日の夜までかかる予定だったんだけど、思ったよりスムーズに進んで夕方くらいに全て撮り終わった。モデルって想像より大変だなぁって思ったのと同時にすごく楽しくてやり甲斐があった。カミツレさんも納得のいく写真がたくさん撮れたみたいでとっても満足そうだった。撮影って一日で終わると勝手に思い込んでいたけど実は泊まり込みで三日間のスケジュールだった。だからあの二人にも三日間会っていないのだ。早く終わったこともありギアステーションまで足を伸ばしてみることにした。





ふらふらとシングルトレイルのホームを歩いていると、線路を挟んで向こう側に見慣れた黒いコートが視界に入った。嬉しくなって呼び掛けようしたが、言葉を失ってしまった。ノボリさんの横には私が仕事の時に着ている制服を来た綺麗な女性が寄り添っていたからだ。だれ?どうしてその制服を着てるの?どうしそこに立ってるの?思考回路がぐしゃぐしゃでそこから足が動かなかった。その間に二人は執務室の方向へ戻って行った。私は動けずにその場に立ち尽くしていた。

「ヒメ!?おかえり!会いたかったよー!」

そんな私の思考を引き裂いたのはよく聞き慣れた明るい声だった。衝撃と共に後ろからすっぽり抱き締められた。

「ただいま帰りました。」
「早かったね!」
「はい、思ったより早く終わったので来ちゃいました。」

へらりと笑顔を取り繕って答えた。大丈夫。ちゃんと笑えてるはず。

「ねぇ、ヒメ」
「・・・?」
「元気ない?どしたの?」

と、心配そうに私の顔を覗き込んできた。クダリさんは意外と人の気持ちに敏感だ。すっかりそのことを忘れていた。でもノボリさん本人に聞くよりクダリさんに聞いた方がいいのかな?聞きたいような聞きたくないような色々な感情が入り混じっていたが、そろりと口を開いた。

「あの、さっき、ノボリさんと、」
「あ、もしかしてあれ見ちゃった?あのね、ちゃんと説明する!ちょっと話長くなるからこっち!」

私が言いたかったことをすぐに分かってくれたみたいだった。ぐいぐいと手を引かれスーパーダブルのホームまで来た。この時間はスーパーダブルは運行していないからかホームはとても静かだった。

「はい!」
「ありがとうございます。」

クダリさんが買ってきてくれたホットミルクティーに口を付けるとじわっと甘い温かさが身体中に広がった。そこからクダリさんが私の横に腰掛けてぽつぽつと話し始めた。


さっきの綺麗な女性は駅長のお孫さんのレイカさん。(駅長が目に入れても痛くないくらい可愛がっているというのはギアステーションでも有名な話だ。)
彼女がバトルサブウェイで働いてみたいと言い始めたらしい。さすがに雇うわけにはいかないから体験ということで急遽一昨日から此処に来たとのことだ。勿論仕事内容なんて一切分からないから誰がが教えないといけない。そこで彼女が直々に指名したのがノボリさんだった。駅長から頼まれたこともあったし、律儀で真面目なノボリさんが断れるわけもない。それで彼女がノボリさんを気に入ってべったりだとか。

これがクダリさんが話してくれた内容だった。そりゃあ彼女がノボリさんを気に入ってるとかべったりだとかは聞いてて良い気はしないけれど、事情を聞いてもやもやが少しだけすっきりした。でもレイカさんは仕事が終わった後にノボリさんをディナーに付き合わせているらしい。だから必然的に彼女がいる間はクダリさんと私が早番、ノボリさんとレイカさんは遅番になる。しばらくはノボリさんと一緒に夜ご飯が食べられないのが少し悲しかった。でもノボリさんの方が大変な思いをしているんだからそんなことは言えない。

「ぼくがヒメのこと独り占めする!」

にこにこと笑ってクダリさんが言った。

「あと制服なんだけどね、あの子が着たいってだだこねたからヒメの一着貸しちゃったの。ごめんね。」
「クダリさんが謝ることじゃないです!私全然気にしてないから大丈夫ですよ。」
「良かった、ありがと!あのね、ぼくもうすぐ仕事終わるから一緒に帰ろう!」

それからすぐに着替えて出てきたクダリさんと手を繋いで家に帰った。ノボリさんは少し体温が低めだけれど、クダリさんは体温は高めだ。繋いだ手からぽかぽかと伝わる体温がとても心地良かった。




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