ノスタルジックガール | ナノ

40



「じゃあ行ってきますね。」
「何かあったらすぐに行きますので連絡して下さいまし!」
「変なことされそうになったらすぐオノノクス出して竜の舞からの逆鱗するんだよ!」
「ノボリさん、来なくていいからちゃんと仕事して下さいね。クダリさん、さすがに人に逆鱗したら即死です。」







これはまずい。
非常にまずい。
いつもはしゃんと背筋を伸ばして書類に目を通したりデスクワークをきっちりとこなす黒ボスがデスクにに項垂れている。白ボスは棒付きキャンディを食べながら掌に乗せたバチュルの頭をぐりぐを撫でている。そんなしている内に次々とボス達のデスクに書類が溜まっていく。

「ボス達、いい加減に書類せな。」

痺れを切らしたのかクラウドさんが言いに行った。たぶん鉄道員の中でボス達にそんなことを言えるのはヒメとクラウドさんくらいだ。

「だってヒメいないとやる気でない!早く会いたい!いっぱいぎゅってしたい!」
「バトルから帰って来てもあの可愛らしい笑顔で迎えてくれないのですよ?バトルの楽しさも半減でございます。」
「あかん。この廃人達もうだめや。」

本当にボス達だめみたいだ。これじゃさすがに仕事が回らない。僕はこっそりライブキャスターを持って執務室の外に出た。ライブキャスターで呼び出すのは勿論ヒメの番号だ。撮影中だから繋がらない可能性の方が大きいだろうけど駄目元でかけてみる。

「もしもし、カズマサ?」
おお、繋がった!
「撮影中にごめんね。今ちょっと良いかな?」
「休憩中だから大丈夫だよ。どしたの?・・・もしかしてノボリさんとクダリさん?」
「ご名答。あの二人ヒメがいないと仕事しないんだよ。それでちょっとヒメに連絡したんだ。」
「もー、困ったなぁ・・・」
「任せなさい!」

ライブキャスターの画面に写り込んで来たのは鮮やかな金色だった。この人は!もしかしてカミツレさん!?

「私が最高にクラクラする可愛いムービーを撮って送ってあげる!」
「え?ちょ、カミツレさん!?」
「じゃあ一旦切るわね。すぐ送るわ。」

一方的に通話を切られてしまった。カミツレさんすごく綺麗な人だったな。さすがスーパーモデルって肩書きは伊達じゃない。でも、そんなスーパーモデルの横にいても見劣りしないヒメにも驚いた。
しばらくベンチに腰掛けて待っているとメールの受信音が響いた。開いてみると「これをバカ双子に見せなさい。一気にやる気が出るわよ。」とおそらくカミツレさんが打ったであろう本文とムービーが付いていた。すぐに執務室に戻った。

「カズマサ、急におらんくなったさかい、また迷子になったんかと思うたわ。」
「すみません。でもボス達にやる気を出してもらうもの持って来ました。」
「ホンマか!?」

クラウドさんも相当手を焼いていたみたいだ。ボス達のデスクまで行き微塵もやる気を感じさせられない背中に声を掛ける。

「ボス、」
「なーに?今日は書類やらないよ。」
「これ見て下さい。」
「何でしょう?」

ちらりとこちらに視線を向けて、ムービーを見る。ヒメが写った瞬間光の速さでライブキャスターにかじりついた。

「あのっ、二人とも私がいなくてもちゃんとお仕事しなくちゃ駄目ですよ?私が出勤したときに書類いっぱいあったら怒りますからね!
それから、えと、ノボリさんはお仕事頑張ったらご褒美に一緒に、あの、その、お、お風、呂に入りましょうっ。
クダリお兄ちゃんは次のお休みはいっぱいくっついてごろごろしましょうね。
ふ、ふたりともだいすきですっ!」

ぷつりとムービーが切れて画面が暗くなった。これはボス達に画面が効果ばつぐんなんじゃないかな?二人を見ようと思ってそろりと顔を上げた。

「スーパーブラボー!!何でしょうかあの愛らしさは!顔を真っ赤にしてお風呂に誘うだなんな悪い子です!私も愛しております!」
「うわー!ヒメすっごく可愛い!くるくるふわふわのツインテールぼくだいすき!しかもお兄ちゃんだって!ノボリ聞いた!?次のお休みいっぱいぎゅうってするの!」
「クダリ、一枚たりとも書類は残しませんよ!」
「おっけー!任せて!」

一気にテンションの上がった二人はデスクに向き直りすごい勢いで書類を片付け始めた。カミツレさんの言う通りこれでやっと仕事がまともに回りそうだ。クラウドさんがぽんと僕の肩を叩いた。

「ようやった、カズマサ。お前のおかげで無事に今日も運行出来るわ。」
「僕も一安心です。ヒメに感謝しないといけませんね。」
「ほんまにな。ヒメの甘えるにあの二人メロメロでストレート負けやなぁ。」

しみじみとヒメ偉大さに感動していると、執務室の内線が鳴った。クラウドさんが取り、通話が終わった途端慌ててボス達を呼んだ。

「ボス!駅長が応接室まで至急来て欲しいって!」
「駅長が?またいささか急ですね。」
「ぼく行こうか?」
「いえ、私が行ってきますのでクダリは現場をお願いします。」
「りょーかい。」

駅長はこのギアステーションを統括している一番偉い人だ。そんな人から至急でお呼びがかかるなんて相当大事な用事なんだろう。
まさか、この呼び出しがあんな台風を持ってくるだなんて、僕たちは予想も出来なかった。


prev next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -