ノスタルジックガール | ナノ

39



もうすぐカミツレさんが来るって連絡が入ったから、私は応接室でお茶の準備をしていた。今日はフィナンシェを作ってきた。私は紅茶、ノボリさんはコーヒー、クダリさんはココア。いつも私たちの飲み物はほとんど決まっている。カミツレさんは何が好きなのかな?
ぐらぐらとお湯が沸く音と聞きながらぼうっとそんなことを考えていた。

「ヒメ」

凛とした綺麗な声が私の思考を遮った。振り向くとそこにはカミツレさんが立っていた。わ、今日の私服も格好いいなあ。細身のスキニーにハイヒールが良く似合ってる。絶対に私には似合わないもん。

「迎えに行こうと思ってたのにごめんなさい!」
「良いのよ。気にしないで。今日は私がいきなり押しかけたんだから。」
「お話があるってクダリさんに聞きました。」
「えぇ、そうなの。双子は?」
「今マルチに行ってるのでもう少ししたら帰って来ると思いますよ。」
「丁度良いわ。」
「・・・?」

てっきりノボリさん達に用事があると思ってたんだけど違うのかな?とりあえず飲み物を入れて座ってもらおう。

「飲み物は何にしますか?」
「コーヒーが良いわ。」
「はーい。」

向かい合わせにソファに腰かける。さすが、接待用のソファなだけあってふかふか。紅茶を飲みながらちらりと前に座るカミツレさんを盗み見る。お肌つるつるだし、細くて長い指によく合った綺麗なネイル、すらりと背も高くってやっぱり私の憧れの大好きな人。何食べたらあんなになれるんだろう。カミツレさんの美しさに思わずふうっとため息が出てしまう。

「そんなに見られると照れるわね。」
「ご、ごめんなさい!」
「冗談よ。ところでこのコーヒーとても美味しいわ。フィナンシェとの相性ばっちりね。この間ヒメの家で飲んだのと同じ味ね。」
「そうなんです。ノボリさんも美味しいって言ってくれるのでこっちにも持ってきたんですよ。」
「あの無頓着だったノボリがねぇ。
ところで本題なんだけどね、」
「はい、なんでしょう?」
「今度私のブランドを立ち上げることになったの。」
「おめでとうございます!すごいです!」
「ありがと。新作の撮影のそろそろしないといけない時期なの。そこでね、モデルを私とヒメでしたいって思ってるのよ。」
「・・・え?」

なんかこの街に来てから驚かされることが多すぎる。
え?私がモデル?しかもあのカミツレさんと?まったくそんな経験なんてないのに?ぐるぐるとそんなことが頭の中を駆け巡る。

「どうかしら?」
「私ですが?カミツレさんみたいなモデル体型ならまだしもこの身長ですよ?大人っぽい恰好良い着こなしなんてしたことないですし・・・」
「そこが良いのよ!ブランドのコンセプトは格好良いだけじゃなくて、女の子皆が可愛く格好良く着れることなんだから!私は逆なの。可愛い服は似合わないし、私の身長で可愛い格好なんて一般の女の子は参考にならないのよ。」
「でも、他に私くらいの身長のモデルさんなんていっぱいいるんじゃないんですか?」
「私がヒメと一緒に仕事がしたいの。それに自分のことを卑下しすぎだわ。ヒメは自分が思ってるよりずっと可愛くて魅力的なのよ?私も双子も貴女にクラクラだもの。」

どうしよう、ちょっと泣きそう。
カミツレさんと一緒に仕事をしてみたいのは本音。でも私がモデルなんて、そんなことしたことがないし、自信がなくて。でもカミツレさんがたくさんいるモデルさんよりの私を選んでくれて一緒に仕事がしたいって言ってくれた。嬉しい、ほんとに嬉しい。

「やります、やりたいです!」
「ありがとう!嬉しいわ!あとは双子を説得するだけね。」

説得ってどういうことだろう?聞こうと思って口を開こうとしたところにタイミングよく二人が入ってきた。

「待ったー?」
「お待たせして申し訳ありません。」

私を真ん中して右にノボリさん、左にクダリさんが座った。

「お話ってなあに?」
「単刀直入に言うわね。ヒメに私の立ち上げるブランドのモデルを頼もうと思っt」
「お断りいたします。」
「最後まで聞きなさいよ!」
「聞いたところで私の意見は変わりませんので。ヒメをたくさんの人の目に晒すことに賛同など出来る訳がないでしょう。」

わあ、二人ともそんなに睨み合わなくても。ちょっと困って助けを求めようと、今まで黙っていたクダリさんのほうを見るとにっこりといつもの笑顔で笑ってくれた。クダリさんの笑顔って絶対マイナスイオン出てる。見当違いなことを考えてたらクダリさんが口を開いた。

「ねえねえノボリ、そーゆーのはちゃんとヒメに聞かなくちゃ!」

おお!クダリさん良いこと言いますね!私もちゃんと自分の言持ちを言わなきゃ!

「ノボリさん、私やってみたいんです!自信はないですし、出来るか分からないですけど、挑戦してみたいって思ってるんです。お願いします!」

ノボリさんのコートの端っこをぎゅっと掴んで、一生懸命伝わるように言ってみる。ちゃんと伝わってくれるかな?ノボリさんは困ったような顔で眉根を下げている。カミツレさんが小さい声で「もらったわ!」って言ってる。

「カメラマンは難しいかもしれないけど、それ以外のヘアメイクとかフィッティングのスタッフは女性だけで固めるつもりよ。私だってヒメに馬鹿な男が近づかないように見張ってるわ。」
「ノボリはヒメに甘いからねぇ〜」
「わ、分かりました。露出が多い服などはおやめ下さいまし。」
「はいはい。」
「ありがとうございます!」

「ノボリ、しばらくヒメにキスマークと噛み痕つけるのやめて頂戴ね。」
「何故です!?」
「馬鹿!当たり前じゃない!あんな痕だらけじゃモデルは出来ないわよ!」
「カミツレ様は鬼の様な方です・・・」

クダリさんは二人のやり取りを見ながらげらげら笑ってる。でも、一応丸く収まったかな?良かった良かった。二人にも飲み物を入れようと思って立ち上がると、ノボリさんも着いてきた。

「座ってて良いですよ?」
「一緒に行きたいのです。」

なんか可愛いなぁって思っちゃった。やっぱりノボリさんのことが大好きだ。にやけてしまう顔を手で隠そうとしたら、ノボリさんの顔が耳に近づいてきた。

「今日は帰ったらヒメからキスして下さいね?」
「・・・!?」
「私はモデルをする許可を出したのですから、ギブアンドテイクでなくてはいけませんよね?」

可愛いなんて嘘!
前言撤回します!




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