ノスタルジックガール | ナノ

36



「黒ボス!ヒメさんが誰かに連れて行かれました!」
「何ですって!?」







私はバトルトレインを下車して執務室に帰ろうとホームを歩いているところだった。やっぱりスーパーシングルトレインはトレーナーさんも強くて楽しいなぁなんてぼんやり考えていた。
ちょんちょんとスカートを突かれる感覚に振り返ると足元にゲンガーがいた。迷子だろうか。

「こんにちは。迷子になっちゃったの?・・・あれ?」

まさか。いや、そんなわけない。だってこんなところにいるわけがないもの。ふと脳内をよぎった考えを否定するようにゲンガーを見た。何も言わないで私をじっと見つめている。さて、どうしようかな。と思ったところに後ろからとても懐かしい声が聞こえた。

「ゲンガー?どこに行ったんだい?」

その声に弾かれた様に振り返ると、そこには柔らかそうな金色の髪の毛に、京紫色の瞳、とろんと下がった目尻で優しく微笑む男の人がいた。

「・・・嘘?マツバさん?」
「嘘じゃないよ。久しぶりだね、ヒメ。」

私の頭を撫でながら言う。やっぱりマツバさんのゲンガーだったんだ。まさかジョウト地方に住んでいるマツバさんがイッシュ地方の、しかもライモンシティに来ているなんて誰が想像出来ただろうか。

「どうして此処に?」
「最近のプラズマ団の不穏な動きに他の地方のジムリーダー達も気を配った方が良いってことでジョウト地方のジムリーダー達が何人か収集がかけられたんだよ。」
「それなら来るって言って下さいよ。」
「驚かせようと思ってね。だからメールで働いてる場所とか聞いただろう?」

なるほど。だから最近近況を聞いてくるようなメールをして来たのか。作戦成功だね、なんて楽しそうに笑うマツバさん。それはもう大成功です。

「ねぇ、ヒメ。これからランチに付き合ってよ?僕まだお昼食べてないんだ。」
「それは喜んでお付き合いしますけど、まだ私休憩じゃないですよ。」
「それなら大丈夫!あ、そこのキミ!これヒメの上司の人に渡してくれるかな?」

たまたま通りかかった鉄道員さんに手紙のような物を渡す。あれ何だろう?

「よし、じゃあ行こうか。」

前みたいに少し強引に、でも優しく私の手を引きながら前を歩くマツバさん。あぁ、この感じすごく懐かしいな。


私とマツバさんが出会ったのは、私が旅をしている時だった。千里眼の持ち主を彼は私がジムに挑戦しに来るのを前から分かっていたようだった。千里眼を持つマツバさん、ポケモンの声が聞こえる私。普通の人にはない力をそれぞれ持っていて、その上お互いゴーストポケモンが大好きな共通点があった。私達が仲良くなるのにそこまで時間はかからなかった。マツバさんの隣は穏やかな彼の性格と同じでとても居心地が良かった。その心地良さから抜け出せずに予定よりだいぶ長くエンジュシティに留まってしまった。
私はその時自分の力にすごく悩んでいる時期だった。他の人が持っていない能力。でも下手に悪用されれば大変なことになるのは分かっていた。でも誰に話すことが出来なくてもがいていた。その話を優しく聞いてくれて、恥ずべきではない素晴らしい能力だと言ってくれた。その言葉が私をどれだけ救ってくれたか彼はきっと知らない。でもそれでいいの。私だけが知っていればいいの。
きっと今思えばマツバさんのことが好きだったんだと思う。その時は恋心なんてまだ分からなかったし、旅を続けることが優先だったから。
あぁ、ノボリさんに連絡しなくちゃ心配させてしまう。頭の片隅でそう思ったけれど、今は少しだけこの懐かしい気持ちに浸らせて欲しい。マツバさんの揺れる金髪を見つめながらそう思っていた。


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