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「んー、のぼりさん、」
「ふふっ、今日はとても甘えん坊ですね。」
「ノボリ、そのにやけた顔をどうにかなさいな。」
「カミツレ、それいまのノボリに言ってもデレデレだから効果ない。」
明日は私もヒメも双子も休みがたまたま合ったので双子宅で飲むことになった。ヒメとノボリが付き合うことになったのはヒメからメールで聞いてたけど、直接会って聞きたいことと言いたいことが沢山あるわ。
ヒメが作ってくれた晩御飯とデザートを頂いてから飲み始める。私と双子は割りとお酒が強いから始めからビール、ワイン、焼酎などと飛ばしている。ヒメはあまりお酒が強くないのか甘めの酎ハイやカクテルをちびちびと飲んでいる。
「ヒメはあんまりお酒強くないの?」
「うーん、あんまり今までたくさん飲んだことがないので分からないです。甘いお酒を少し飲む位だったので。」
「そうなの?このカクテル飲んでみてよ。甘くておいしいよ?」
そう言ってクダリはヒメにアルコール度数が高めのカクテルを渡す。受け取ったヒメは飲んでも良いものなのか少し戸惑っているみたいだった。
「飲んじゃえばいーよ。どれだけ酔っ払っても明日休みだから大丈夫!」
「クダリ、ヒメに無理をさせるのはおやめなさい。」
あら、ノボリの小言が飛んで来たわ。ここで止めに入るなんてつまらない男ね。ノボリだってきっと酔っ払ったヒメを見てみたいくせに。
「あの、無理しないので飲んじゃだめですか?ちょっと飲んでみたいです。」
じっ、とノボリを見つめながらヒメが言う。あんなに可愛い顔で頼まれたら断れないわね。
「す、少しだけですよ?きつくなったらすぐに言って下さいまし。」
「はいっ!」
ちょろいわね。
それからヒメはクダリに出されるお酒を次々に飲んでいき、顔が真っ赤になって少し呂律が回らなくなってきていた。
「ヒメ、そろそろやめた方が・・・」
ノボリがそう言いかけたところで彼のライブキャスターが鳴った。着信相手を見て軽く溜息をついたところを見ると大方職場からね。
「少し席を外します。」
そう言ってベランダへ向かった。
チャンスね。鬼の居ぬ間に何とやらだわ。ノボリはヒメに対して過保護だもの。
「ねぇヒメ、ノボリのどんなところが好きなの?」
「ぼくもしりたい!」
「えっと、そうですね。ぜんぶ好きなんです。やさしくてかっこよくて、いつもおしごとがんばってて。」
「あら、ヒメもノボリのことが大好きなのね。」
「そうなんですー。だいすきなんです。」
浮かされたようにふわふわ笑うヒメは最高に可愛いわ!ノボリには勿体ないくらい。元々とても可愛いかったけど、ノボリと付き合い出してから更に可愛くなった。やっぱり女の子は恋すると変わるものね。
「もー!ヒメなんでそんなに可愛いの?」
クダリがぎゅうっとヒメを抱き締める。こいつもすっかりシスコンね。んー、と何か唸りながらもクダリにされるがままになっている。完璧に酔ってるわね。
そこに通話を終えたノボリが戻ってきた。ソファに腰掛け、無駄に長い足を組む。
「のぼりさんっ、おかえりなさい!」
クダリの腕の中からするりと抜け出して、ノボリの組んだ足の上に跨った。あらあら、ヒメは恥ずかしがり屋って聞いてたけどお酒の力は凄いわね。
「少し飲み過ぎでは?貴女酔っているでしょう?」
「んーん、ぜんぜん!」
そう言いながらもちゃっかりヒメの腰に手を回してるじゃないの。それからすりすりとノボリの胸に擦り寄ったり、首筋に顔を埋めたり。そのときのノボリのだらしない顔ったら!これがサブウェイマスターだなんて思いたくないわ。
お酒が完全に回ってしまったのか、ヒメはノボリの膝の上に乗ったままこっくりこっくりと揺れ始めた。
「クダリ、カミツレ様。もうそろそろ時間も時間ですのでここら辺でお開きに致しましょう。」
「そだね。カミツレ泊まってくよね?」
「えぇ、そうさせてもらえると助かるわ。」
この時間に帰るのも面倒だし明日も休みだから問題ないでしょう。
「ヒメの部屋をお使い下さい。」
「ヒメはどこで寝るのよ?」
「私の部屋で。では、私達はお先に失礼します。」
ヒメを横抱きにして部屋から出て行くノボリ。変わったわねぇ。昔はあんな顔したりとか誰かを気に掛けることなんてなかったのに。
「ノボリ変わったでしょ?」
私の心を見透かしたかのように片割れが言う。
「えぇ、驚くくらいね。ところであの二人いつも一緒に寝てるの?」
「ほとんどね。ヒメが部屋で寝るって言ってもいつもノボリが連れてっちゃうから。」
「何それ、子供じゃない。あのノボリがねぇ。」
なんだかまだ寝る気になれなかったからクダリと飲み直すことにした。もちろん話の中心はあの二人だったけれど。