ノスタルジックガール | ナノ

31



うーん。
そろそろ聞いても良いだろうか?
ゆらゆら尻尾のように揺れるヒメの髪の毛を見ながら思っていた。
くるくるに巻いていたり、二つに結んでいたり、ストレートに垂らしていたり、お団子にしていたり。女性の髪型のバリエーションの豊富さに感心したのをよく覚えている。個人的にはふわふわに巻いているのが可愛くて好きだ。ちなみに白ボスは二つに結んでいる(ツインテールというらしい。白ボスが教えてくれた)のが好みだと言っていた。

そんなヒメは今日はポニーテール。ポニーテールになると必然的にうなじが見えるわけで。ヒメのうなじに真っ赤に残っている鬱血の痕。ヒメは肌が白いから余計に目立つ。誰が付けたんだろうか?黒ボス以外あり得ないと思うけれどそんな話は聞いていない。ちらりとクラウドさんの方を見ると目が合い、複雑そうな表情をしてた。どうやら考えていることは同じらしい。よし、聞いてみよう。

「ねぇ、ヒメ。」

「なぁに、カズマサ?」

棚に書類を直しているヒメを呼ぶと、首だけでこちらを振り返る。

「あのさ、誰かと付き合ってるの?」

「え!?・・・わあっ!」

あ、持ってた書類が落ちて床に広がる。僕も自分の席を立ち拾うのを手伝う。

「・・・何でそんなこと聞くの?」

「いやぁ、だってさ、その首の痕見たら普通そう思うでしょ?」

「首の痕ってなに!?」

「え?気付いてないの?付いてるよ。ここにキスマーク。」

とんとんと痕が付いているところを指で叩くと、慌ててヒメは手で隠した。今更隠してももう遅い気がするけれど。

「やだ、信じらんない!」

「んで、誰が付けたんや?」

クラウドさんも来てにやにやしながら問いかける。ヒメはキスマークが余程恥ずかしかったのか、拾い終わった書類で真っ赤な顔を隠した。

「そこまでです。私の恋人を苛めるのはおやめ下さいまし。」

ひょいっとしゃがみ込んでいたヒメが抱き上げられる。上を見ると、サブウェイマスターの専用の執務室(通称ボス達の部屋)から出てきた黒ボスがいた。

「やっぱり黒ボスやん!」

「えぇ、当然です。」

執務室のソファに座り、その横にゆっくりとヒメを下ろす。

「ノボリさん!なんて事してくれるんですか!?」

「おや、私は朝お教えしましたよ?」

「絶対言ってないですー!」

「"今日はポニーテールで良いのですか?"と言ったではありませんか。」

「そんなんじゃ分かる訳ないです!」

うー、と喉の奥で小さく唸るヒメとくすくすと笑う黒ボス。なんとも対象的な二人。

「さて、そろそろ見回りに行きますよ。」

「ちょ、待って下さい!絆創膏か何かで隠させて下さいよ!」

「気にせずとも良いではありませんか。」

「良くないですってばー!」

ぐいぐいとヒメを引っ張りながら執務室から出て行った。いずれあの二人は付き合うとは思っていたけど黒ボスがあんなになるとは。

「おーおー、黒ボスえらいご機嫌やったなぁ。」

「僕あんな黒ボス初めて見ました。」

「わいかて初めてや。まぁ今までずっと頑張ってきたんやし、大事な人が出来るのはええ事や。それにヒメやったら申し分あらへん。」

「そうですね。僕もそう思います。」

今日もギアステーションは平和です。




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