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ふとデスクの上を見ると、ライブキャスターがちかちかと光っておりました。電話でしょうか?着信を見ると「ヒメ」と出ていました。失礼、と一声掛けて電話を取ると、そこにはヒメではなくランクルスが映し出されました。
「ランクルス、ヒメはどうしたのですか?」
ランクルスはとても焦っていて、私の嫌な予感が当たったようでぞっとしました。何かを伝えようとしていましたが、私はヒメのような力は持ち合わせていないためわかりません。ですが、こんなに焦っているということはヒメに何かあったに違いありません。シャンデラがモンスターボールから出てきて、私を引っ張ってどこかに連れて行こうとします。
「シャンデラ、ヒメがどこにいるのか分かるのですね?」
シャンデラが大きく頷いたのを合図に駆け出していました。
シャンデラに案内されて着いたのは、今は使われていない廃線でした。しばらく道なりに進むとランクルスの鳴き声が聞こえて、そちらへ向かうと横たわっているヒメを見つけました。一瞬冷たい手で心臓を鷲掴みされたような感覚に陥りました。
「ヒメ!」
駆け寄って声を掛けも反応がありません。意識のないヒメを抱き上げ、一刻も早く病院へ向かうために、クダリに借りてきたアーケオスを呼び出しその背中に乗ります。
「ヒメ、もう少しでございます。」
病院に着きジョーイ様に看て頂くと、外傷もなくただ今は意識を失っているだけだと仰いました。それを聞き安心したのか急に力が抜け、椅子にへたり込んでしまいました。
ベットに寝ているヒメの横には先程のヒトモシ、そしてパートナーのランクルス、私のシャンデラがおりました。ヒメを看てもらっている間にシャンデラが少しだけ力の加減の仕方をヒトモシに教えていたようで、もう心配ないでしょう。
「ん・・・」
ヒメの瞼がゆっくりと開き、横にいたヒトモシを見つめていました。ヒトモシもぽろぽろと涙を零しながらヒメに飛び付きました。
「そんなに謝らないで。さっきは私がいきなり大きな声出したかびっくりしちゃったよね。・・・あれ?」
ふと気付いたようにヒメは言葉を紡ぎます。
「もう力の加減が出来るようになったの?やっぱり君は凄い子だね。ねぇ、私と一緒に来てくれる?私は君とずっと一緒にいるよ。約束する。」
ヒトモシを抱き上げ目が合う高さまで持ち上げて言います。ヒトモシもヒメに一生懸命話しているようでございました。その光景はとてつもなく神々しく、私には口を挟むことも動くことすらも出来ませんでした。
「ありがとう。私すごく嬉しい!これからよろしくね。」
ぽろりと一筋の涙がヒメの頬を伝いました。やっと動くようになった手を伸ばして拭いました。
「ノボリさん、また来てくれたんですね。」
「えぇ、さすがに貴女が倒れているのを見た時は心臓が止まるかと思いました。」
「いつも迷惑かけてごめんなさい。」
そう言って、目の前で揺れる瞳を前に私は溢れ出す気持ちを抑えることが出来ませんでした。
「ヒメ、」
「はい。」
「お慕いしております。」
ぼんっと効果音が付きそうなくらいヒメの顔が真っ赤になりました。そんな反応も愛しくて仕方がありません。ヒメの両手を握り続けます。
「貴女の素直な気持ちを聞かせて頂きたいのです。」
「あの、えと、わ、私は・・・っ」
しどろもどろになりながら、私の手を握り返してきます。期待してもよいのでしょうか?こんなにも時間が遅く感じるとは。
「私もノボリさんのこと大好きですっ」
嬉しさの余り言葉より先に体が動いてしまい、ヒメをかき抱きました。
「ノボリさん、苦しいです。」
少し困ったように、けれども嬉しそうに笑うヒメがおりました。
「申し訳ありません。ですが、貴女を見ていると触れたくて触れたくて仕方がないのです。これからは覚悟して下さいね?」
「お、お手柔らかにお願いします。」
「善処致します。ではそろそろ帰りましょうか?」
「はい。クダリさんかお腹をすかして拗ねちゃってるかもしれませんね。」
ヒメの手を取り、ポケモン達を連れて病院を出ます。私は今大変清々しい気分でした。お慕いしている方が同じ気持ちを自分へ返して下さることがこんなにも幸せなことだったとは。クダリにも早く報告をしなければいけまぜね。あの子がとても喜んでくれる姿が目に浮かぶようです。