ノスタルジックガール | ナノ

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「うかうかしてたらヒメ取られちゃいますよ?」


先程ヒメを迎えに行った時にトウコ様に言われた言葉でございます。十分分かっているつもりではございました。早めに気持ちを伝えねばとは思っておりますが、中々踏み出せずにいるのです。









あの後すぐにマルチトレインからの要請があり、バトルを終え執務室に戻るとヒメの姿が見当たりません。どこに行ったのでしょうか?

「ねぇカスマサ、ヒメはー?」

同じことを思っていたのかクダリがカズマサに問いかけました。パソコンから顔を上げたカズマサが答えます。

「あぁ、ヒメならさっき迷い子のヒトモシがいるって報告があったので出て行きましたよ。」

「そっか、ありがと!」

一人で行ったのでしょうか?なんだか少し胸騒ぎが致します。ヒメ、早く帰ってきて下さいまし。










さっきインカムで迷い子のヒトモシがいるとの連絡があった。ヒトモシは人の生命力を吸って炎を灯している。今回の迷い子のヒトモシはまだ生まれたばかりで、その手加減がうまく出来ないらしい。だから体調不良を訴えるお客さんが何人かいた。近くを通っただけでそんな症状が出るってことはかなり能力の高い子なんだろう。これは放っておくのはまずいと思い探しにきたのだ。カズマサがついていこうかと声をかけてくれたが、彼のデスクの書類の多さを見て丁重にお断りしておいた。

ヒトモシが逃げて行った方向へ歩いて行くと人気のない今は使われていない路線だった。小さな後ろ姿が見えたのでゆっくりと声を掛けた。

「ねぇ、君は野生のヒトモシ?それともトレーナーがいるの?」

するとヒトモシはこちらを振り返り、トレーナーはいないと言った。

「そっか。野生の子なんだね。じゃあ仲間のところに戻ろうか。タワーオブヘブンだよね?此処は広いから私おうちまで送るよ。」

しゃがみこんでヒトモシの方へ手を伸ばして抱き上げようとすると、炎が強くなり私の手に当たった。

「・・・っ。」

少し火傷をしてしまったのか手の甲がじくじくと痛む。私を見据えながら仲間なんていない、みんなぼくの炎が強過ぎて傍にいれないと言って離れて行った、と言う。じゃあずっとひとりぼっちだったの?そんなの悲し過ぎる。

「君が良ければだけど、私と一緒に来ない?私は此処でバトルをしてるんだけど、此処でなら君の強い炎が生かせると思うの。」

私がそう言い終わると、こちらにくるりと私に背を向けてまた逃げようとするヒトモシ。泣いてるの?今ヒトモシを一人にしちゃいけない。そう思った時には私も後を追っていた。

「待って!」

こっちに来ないで!と言い炎が一層強くなりこちらに向かって来る。あ、これはまずい。頭がぼうっとして、視界が霞んでくる。だめ、今気を失ったらだめ。呆然とこちらを見ているヒトモシと目が合う。そしてモンスターボールからランクルスが出てくる感覚を最後に耐え切れずに意識を手放してしまった。




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