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「こっちに帰って来るのは久しぶりだから早く会いたいです。」
「えぇ、お二人ともバトルが大変強いのでバトルトレインに乗車して下さるのもとても楽しみでございます。」
ノボリさんとベンチに座り二人が来るのを待っていた。二人というのはトウコちゃんとトウヤくんだ。二人はしばらく旅に出ていたので、ギアステーションに来るのは久しぶりなのだ。メールのやり取りはしていたが、おそらく最後に会ったのは私が此処で働き始める前だからもう数カ月前になる。
「到着されたようですよ。」
ノボリさんが私の後方を見ながら言った。
「じゃあ私行ってきますね。」
「お気をつけて。ごゆっくり楽しんで来て下さいまし。何かございましたからすぐに連絡を入れて下さい。」
ふわっと私の頭を撫でながら送り出してくれる。ノボリさんは最近私の頭を撫でるのが癖みたいだ。なんだか子供扱いをされてるみたいだけど、ノボリさんが撫でてくれるのはいつも気持ちが良くてそんなことはどうでもよくなっちゃう。
「ヒメ!」
明るい声に名前を呼ばれ振り返るとトウコちゃんとトウヤくんがこちらに来るのが見えた。私も座っていたベンチから立ち上がるとトウコちゃんに飛びつかれた。
「久しぶりだね!」
トウコちゃんの髪の毛が頬に当たってくすぐったい。今日は二人が帰ってくると伝えていたので、少し長めの昼休憩をもらいトウコちゃんとお気に入りのカフェに向かった。トウヤくんは早くスーパーシングルトレインに乗車したいと言って先にバトルサブウェイへ行った。帰ってきたばっかりなのに本当に好きなんだなぁ。トウコちゃんと話をしながらあっという間にカフェに着いた。窓際の席に案内されそれぞれ注文をして、ランチを取りながら話をした。
「制服似合ってて可愛いね。ギアステーションで働くって言ってたからてっきり他の鉄道員さん達と同じ制服と思ってたんだけど違うんだね。」
「私もそう思ってたんだけど、二人がカミツレさんにお願いして作ってくれたの。」
「愛されちゃってるね。しかもあの二人と一緒に住んでるなんてびっくりしたなぁ。うまくいってるんでしょ?」
パスタをくるくるとフォークに巻きつけながらトウコちゃんが言う。私もスープに息を吹きかけて冷ましながら答える。猫舌だから熱いスープはすぐに飲めないのだ。
「二人ともすっごく優しくて良くしてもらってるよ。」
「いや、それもあるけどさ、ノボリさんと付き合ってるんでしょ?」
「・・・え?」
「・・・は?」
「いやいや!付き合ってないよ!」
「嘘でしょ?さっきあんなに良い雰囲気で話してたじゃない!てっきり付き合ってるのかと思ってたんだけど!」
すごい剣幕で言われる。でもそんなに言われても付き合ってないものは付き合ってない。そりゃあお付き合い出来たら良いなとは思ってるけど、私だって最近自覚したばっかりだもん。
「でもノボリさんのこと好きなんでしょ?」
「・・・好き。」
改めてそう答えると顔に熱が集まってくるのがわかり、恥ずかしくなって下を向いた。
「あーもう、本当にヒメは可愛いんだから。ノボリさんが羨ましいよ。」
トウコちゃんに髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でられる。最近ノボリさんとどんなことがあったかを尋ねられたので、エリートトレーナーさんのことやホラー映画が怖くて眠れなかった時のことなどを話した。
「そこまでしておいてまだ言ってないなんて、ノボリさんって実はヘタレなんじゃないの。」
はぁ、と溜息を付きながらぽつりと言った。どういうことだろうと思って首を傾げるとなんでもない、と言われた。
それからノボリさんの話や、トウコちゃんの旅の話をしていたらあっという間に時間になった。トウコちゃんもこれからバトルトレインに乗車すると言っていたからギアステーションまで戻った。すると、入り口のところに見慣れたコートが見えた。どきんと鼓動が跳ねるのを感じ、横でトウコちゃんがにやにやしながらこっちを見ていた。もう、恥ずかしいから見ないでよ。
「ノボリさん。」
「ヒメ、お帰りなさい。そろそろ戻ってくる頃と思い迎えに上がりました。」
「わ、ありがとうございます。」
わざわざ待っててくれたなんて嬉しい。トウコちゃんがノボリさんに近付いて何か言ってたみたいだけどなんだろう?今からバトルトレインに行くって言ってたからそのことかな?
「ヒメ、あたし行くね。またランチ行こうね!」
「うん、またメールするね。」
「何か進展あったらすぐに教えなさいよ!」
そう言い残して去って行った。え、ちょっと、ノボリさんの前で言ったらだめだってば!
「進展とは何のことです?」
「何でもないです!」
肩を並べて執務室まで戻る途中に目が合うと少し目を細めて微笑むノボリさんにどきっとする。ノボリさんの気持ちは分からないけど、私の気持ちはっきりしたしいつか伝えられるように頑張らなくちゃ。そう小さく決意した。