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「クダリさん、ココアどうぞ。」
「ありがとう。これ何が入ってるの?」
「マシュマロを入れてみました。」
「わ!美味しそう!」
「今日はマフィンを作ってきたので、ここに溜まってる書類を片付けたら食べましょうね。」
「ぼくダッシュで終わらせる!」
まず始めに執務室で仕事をしている鉄道員さん達に飲み物を持って行く。それからクダリさんにココアを渡して、ノボリさんのところへ向かう。最近気付いたのだけれど、ノボリさんはコーヒーが好きで、疲れた時は少しお砂糖を入れて甘くしたのを飲んでいる。
「ノボリさんもどうぞ。」
「ありがとうございます。すっかりくだりクダリの扱いもお上手になりましたね。」
「ふふっ、そうですね。あ、お疲れみたいなので少しお砂糖入れてますよ。」
「よくお分かりで。」
マグカップを受け取りながら私の顔をじっと見つめるノボリさん。
「何ですか?」
「ずっと側にいて下さいまし。」
「い、いきなりどうしたんですか?」
「いえ、私の本音をお伝えしたかっただけでございます。」
この人執務室でさらりと何言い出すんですか!しかもサブウェイマスター専用の方じゃなくて皆がいる執務室で。周りからの視線が痛い。やだもう、絶対私の顔真っ赤だ。
「あの!私見回りに行って来ます!」
「私もお供致します。」
「結構ですー!」
「ぼくとマフィン食べる約束は!?」
「それまでには戻ります!」
これ以上執務室にいるのが居た堪れなくなったので、慌てて見回りという用事を付けて飛び出した。まだ熱い顔をぱたぱた仰いでいると、後ろから聞き慣れた鳴き声して振り向くとノボリさんのシャンデラがふよふよと近づいて来た。
「シャンデラ、どうしたの?え?ノボリさんが私一人じゃ危ないからついて行ってって?」
過保護だなぁ。あのエリートトレーナーさんの一件があってから二人(特にノボリさん)がとても過保護になった。まぁ女の鉄道員って私だけだし気にかけてくれているんだろうな。私もあの一件以来ノボリさんのこと無意識に目で追ってしまったり、なんだか意識してしまって落ち着かない。何だろうこの気持ち。これが好きってことなのかな?恋愛経験がお粗末な私にはわからない。今度カミツレさんが時間あるときにでも相談に乗ってもらおうかなぁ。ところで、
「さっきのシャンデラも聞いてたでしょ?もー、ノボリさんあんなこと言って私のことからかってるのかな?」
さぁ、どうだろうねとくすくすと笑うシャンデラにその笑いの理由を聞いてみるものの内緒、としか言ってくれない。そんな話をしながらホームを歩く。平日の昼間なだけあって利用しているお客さんは少ない。うん、いつも通り異常なし!
そろそろクダリさんが書類を片付け終わる頃かな?顔の熱もすっかり引いたし執務室に戻ろう。
さっきのことはなかったことにして、変に意識しないでいつも通りにしてれば良いよね。
自分にそう言い聞かせるとなんだか少しだけもやもやがすっきりしたような気がした。