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ノボリさんはとってもよく出来た人。
紳士的だし、ポケモンバトルも凄く強い。仕事もきっちりこなすから鉄道員からの信頼も厚い。端正な顔立ちに、すらっとした身のこなし、女性のファンも多いんだとか。そこまで完璧な人なら当たり前か。
なんとなくそんなことを思いながら、スーパーシングルトレインで挑戦者が来るのを待っていた。今日の私は48番目、つまりノボリさんのひとつ手前の車両に乗っている。この前まではシングルトレインにしか乗ったことがなかったのに、いきなりスーパーシングル、しかもノボリさん手前の車両だなんて恐れ多い。
がたんとドアが開く音に思考を遮られ顔を上げると、最近よく挑戦しに来ているエリートトレーナーさんだった。パートナーのレパルダスが傍らにいる。
「ヒメさん、今日は48番目だったんですね。今日は会えないかと思いました。」
「えぇ、最近よく乗車されてますね。ありがとうございます。」
「バトルを始める前に少し良いですか?」
「はい、構いませんよ。何でしょうか?」
何か言われることがあったかなぁとぼんやり思いながら、エリートトレーナーさんの次の言葉を発するのを待つ。
「僕とお付き合いして頂けませんか?」
「・・・え?」
「初めてバトルサブウェイに来た時にヒメさんに一目惚れをしました。それからバトルサブウェイに通い詰めて、僕のことを覚えてもらったら言おうと思ってました。返事を聞かせて下さい。」
まさかそんなことを言われるだなんて思ってもいなかった。でも、想いを告げられてもただ驚くだけで、同じ感情が湧くことはなかった。しっかりお断りしなければ。
「あの、お気持ちはとても嬉しいですが、私にはお付き合いすることは出来ません。ごめんなさい。」
「彼氏がいるんですか?」
「いえ、いません。」
「じゃあ良いじゃないですか。」
あれ?エリートトレーナーさんってこんな人だったっけ?もっと温和なイメージだったのに。
「ごめんなさい。やっぱりお付き合いは出来ないんです。」
「じゃあ無理矢理しかないですね。」
私のその言葉が神経を逆なでしたのか、エリートトレーナーさんは私のところまで来て腕掴み自由を奪う。慌てて腰のモンスターボールにいるオノノクスに出てきてもらおうと思ったけれど、彼のレパルダスがごめんね、と言いながら私の手持ちの3つのモンスターボールの開閉口を壊す。どうしよう、こわい、逃げなきゃ、でも体が動かない、声が出ない。助けてノボリさん。その感情が頭の中をぐるぐる巡る中、なぜかその時不意に出てきたのはノボリさんだった。
「怯えてるヒメさんも可愛いですね。」
なんて狂気を少し含んだようなうっとりとした表情で耳元で囁く彼にトレインの座席に押し倒され、唇を近づけられる。もうだめだ。ぎゅっとつぶった目から涙が頬を伝うのを感じた。