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「うーん、どこに行ったのかなぁ?」
ここで働き始めてから一ヶ月。
バトルも出来て、ポケモン達ともたくさん触れ合えて、鉄道員さん達は皆優しくて良い人ばっかり。充実した毎日を送れている。
さて、今私は「見回りに行って来ます」と書き置きを残して帰ってこないカズマサを探しに来ている。カズマサは年も近くて、話してみたらすっかり意気投合してしまった。今はノボリさんとクダリさんの次によく話をする。そんなカズマサは極度の方向音痴のためにこうやって探しに来ているのだ。
「あ、見つけた!カズマサー!」
「ヒメ!探しに来てくれたんだね!ここがどこかわかんないし全然戻れないし助かったよ。」
「ここ点検用の車両置き場だよ?どうやってここまで来たんだか。」
「なんか歩いてたらいつのまにかね。来てくれてありがとう。」
「ふふっ、どういたしまして。」
二人で笑い合いながら執務室までの道のりを歩いて行った。
「ただいま戻りましたー!」
「遅くなってすみませんでした。」
執務室のドアを開けると、小さな衝撃と共に目の前が真っ白に包まれ、クダリさんに抱き締められてることにすぐ気付いた。クダリさんの後ろで書類に目を通しているノボリさんとも目が合った。
「ヒメー!おかえり!ぼく達マルチから帰ってきたらヒメとお昼食べに行こうと思ってたのにいなかったから待ってた!」
「待たせてしまってごめんなさい。今から行きましょうか?」
「おっと、残念やけどヒメとカズマサは5分後に出るシングルトレインに乗車頼むでー。」
「えー!クラウドのおに!」
「じゃあすぐに終わらせて、ノボリさんのところまで行かせないようにして帰ってきますね。もうちょっとだけ待っててもらえますか?」
「わかった!待ってるね。」
「ヒメ、もうすぐ出発だから行くよ!」
カズマサが私の右手を引きながら言う。「今行くね。」と発しようとした私の言葉は左手を引かれる感覚に飲み込まれた。振り返るとそこには私の手を掴んだまま何か言いたそうなノボリさんが立っていた。
「ノボリさん?」
「え、あぁ、すみません。お待ちしておりますので頑張って下さいまし。」
「はい、行ってきます!」
名残惜しそうにするりと離れた手の感覚にすこし人肌恋しくなりながらもカズマサとシングルトレインまで走って行った。