かきもの | ナノ



キスするときはやさしく僕の背を撫でています。夜眠るときは先にベッドに入り、起きあがったまま「おいで、」と言ってくれるときもあります。僕は犬かなにかのように思われているようで、それが悔しく悪態をつきました。すると彼はわざとらしく肩をすくめて、ベッドから這い出ます。そのまま僕のほうへ近づいて、「もう寝るか」と言いました。単純なことに、僕の機嫌はそんなことで直ってしまうもののようでした。なんて憎らしいことだ!
ベッドの中では僕が誰より父親です。彼を抱きしめて、額にキスをしてやります。たまに外国の絵本を真似て「月におやすみの挨拶をした?」と言うと、彼は恥ずかしそうに「やめてくれよ」と苦笑しました。それでも彼は、僕にだけは挨拶してくれるのです。
眠りの浅い夜は、なにかつらいことを考えているのでしょう。彼はいつもはほとんど打たない寝返りを打って、何度もため息をつきます。シーツを頭から被られたときには彼より背の低い僕まで視界が塞がれるので困ったものです。たいてい、そんなときの彼は人の話など聴き入れやしません。ですので僕は、彼がキスをしてくれるときのように彼の背を撫でて、子どもを寝かしつけるようにやさしく言葉をかけることにしています。いいこだね、怖いことなんてなにもないよ……朝になったら元どおり、ね……そうすると安心して、彼らしい大人びた微笑を見せてくれます。囁き声は子守歌、やがては眠ってしまうのです。もちろん彼が僕の言葉をすべて信じこんでいるわけはありません。例えるならこれは、おまじないでした。彼は家族の愛情がほしいだけなのです。僕と同じように……守っているばかりでは擦り切れてしまうし、守られているばかりでは生き延びていけない。僕たちはそれをなによりも理解し、行動していたいのです。
彼のお話をしてきたけれど、彼が誰だかお分かりですか。僕の兄弟?ふふ、そう思ってくれたら彼もうれしいでしょう……恋人、きっとそれが正しい。ただ兄弟にしろ恋人にしろ、大事なひとという括りに違いはないのだから、その囲いから出なければなんと言われても正解なのかもしれません。曖昧だと怒りますか、サッカーがだいすきな彼は白黒つかないことが嫌いです。自分だって優柔不断なところがあるくせにね……彼が僕のそばにいるということ、はじめは信じがたくて、もったいなくて、申し訳なくて、けれどもその気持ちが今の僕たちになるための過程だったというなら、僕は豪炎寺くんの理不尽なやさしさに感謝してもしきれないのです。







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