かきもの | ナノ


道路と学校の違いを何一つ説明できないのは、どちらも平坦だからだ。コンビニは少し揺らいでいるが、それでもつまらない揺らぎである。蝶は揺らいでいる。鳥も揺らいでいる。しかしいずれはすべて撃ち落されて平坦になるのが分かっている。眠れないことはないが、誰もいない朝は好きだ。スクランブルの真ん中にいて、四方の柱が長くそびえている。行ったことはないけど、いつか行くような気がしている。そういう想像をすると思いだされるのが、夢みたいなことを言って夢を信じない人間のことだ。可能性はあると凰壮も思っているが、思うことと信じることは揺らぎが違う。スクランブルの真ん中で、色のない信号を見ている。彼は注意なんかしてないで、進んでいってしまう。けれどもやっぱり凰壮は「止まれ」だ。そう、平坦な自分のことが、イメージの交差点のなかでは忘れられる。だから光の灯らない信号機はゆらゆらとしていて優しい。なんの脅威もなく、どこまでも自由だ。
「おれを連れてかないでくれよ、虎太、おれを連れてかないでくれ、おれを連れてかないでくれ。虎太、おれを連れてかないでくれよ」
まどろんで意識が浮き上がりそうになると、凰壮はいつもそうしている。ああやって人のペースを引っ掻き回して、どうして頑なでいるのか分からない。眠りがあたたかいから彼はまた落ちていく。グレーの街並みが好きだ。白黒はっきりしなくて、ギリギリに揺らいでいながら一方ではもうとっくに見離されている。そんなふうにいたかった。そうたしかに望んでいた。
あのときの唇は色を知らなくて、翳りのない身体をしていた、凰壮がなにもかも教えたつもりでいて、関係は過去の直線上に置き去りになっても決して消えないと思っていたのに、なのにどうして見えなくなるほど進んでいってしまうんだ。幾重に分かれたスクランブルのどこかの道を虎太がどんどん歩いていく、解っているのにその姿をどうしても認められない……
「おれを置いてかないでくれよ、虎太、おれを置いてかないでくれ、おれを置いてかないでくれ。虎太、おれを置いてかないでくれよ。虎太」
この街には時計もなく、鳥の声ひとつ聴こえない。好きでそんな夢を見ている。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -