かきもの | ナノ


虎太くんは海にいます。ぼくは波打ち際に立っているけど、そこではとってもきみには届かない。きみのからだのひとつひとつが、きらめいている。自由がそこにあると確信している。白い砂を掬っては吐く。そして纏える真珠になって美しくなってゆくのだ。どうかその姿を見せてくれませんか。
ぼくは海に潜ってきみを探す。虎太くんはひときわすてきなんだから容易に見つかると思います。ガラスケースに閉じこめて、底にきれいな石をたくさん撒いて、酸素をめぐらして、栄養価の高い食事をあたえて、温度だって一年中快適な、最高のコンディションでデスクの上に飾るのです。いない間は音楽をかけてあげますし、ぼくのいるうちはずっと、見つめているだけでいいんです。もし静寂が好きならそうしますから。ねえきみは目を閉じられない。だからいつまでも、ね、いいでしょう。ね。
やがておとずれる安寧のときには両手で顔を覆ってしまおう。さんざ泣いたら凰壮くんと穏やかな昔話で笑いながらスープを食べて、そのあとスパンコールを剥がして制服やコートの裏に縫いつけます。そして透明なうちの水晶球をとりだして、凰壮くんと分けっこして壜の中にしまっておきます。たまに、いえ、ねむる前には必ず出して眺めるのです。覗いた世界は大してまん丸いんでしょう。きっと、こんなにも完全な球体を他にぼくは知らないくらいに。
何年も何年もしたらぼくはまた海に潜って、きみのいたところよりもっともっと深いところへ潜ってゆきます。そうして誰にも知られないように深海魚になって、きみのくれた真珠と、スパンコールと、水晶球だけがほんのりとぼくらの身体を照らしてくれるんでしょう。
そしたら、それはとても、どうしようもなく素晴らしいことだ。違いますか?







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