かきもの | ナノ


窓枠が影になる。十字の線を床にひいて、これは、と玲華はすこし可笑しくなる。もしかすると嫌いかしら。几帳面に眉を寄せて、カーテンをきっちり締めるようすを想像したら、穏やかな笑みが浮かんだ。
「西園寺さん?」
フローリングを踏みつける足音は思いの外子どもらしいところがあるから好きだ。玲華が陽射しを受け、彼女の膝のうえに十字をのせたまま振り向く。さわやかに晴れている日は今でもサッカーがしたくなった。白のワンピースをユニフォームに着替えて泥だらけになった日は、どうにも近いようで遠かった。
おや、似合ってますよ、と竜持が微笑む。
「映画みたいだ」
「竜持くんたら」
悪魔はやさしい顔をしたまま十字架を纏う自分を見つめている。やはり昔の話か。傍に寄って膝をつくわざとらしいそのようすはさながら騎士だ。詰めのあまい頭脳派の騎士。似合わない、ほんとうに似合わない。
「キリスト教徒じゃありませんけど、マリアってこんなふうかもしれませんね」
「うそばっかりね、わたしを馬鹿にするのが得意だわ」
「ほんとうですよ」
照れ隠しのように声をあげた竜持の手にそっと触れた。西園寺さん、と言いかけた彼は口をふとつぐむ。頭のよさと察しのよさはちがう。すこし鈍いのね、と思う。陽射しに眩しそうに目を細める竜持の姿は繊細でおそろしい。かききえる悲しみを玲華はまだ知らなかった。気の強く持てる今でも不安なときがあるというのは、彼女が女性になったからだと気づいている。
「崇められたって淋しいだけよ、きっと」
玲華の呟きに竜持はわずかな首肯を返しただけだった。そのとき彼は悪魔という名前を捨てるのはまだ早いのだと悟っていた。手を握り返せば笑う……崇拝の対象としてでなく、純粋に彼女の側面を見つけだすことができればいいのに……わがままな振りをして十字架の影が残る膝のうえに体をあずけると、玲華はみずから日陰を作って竜持の額を撫でるのだった。








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