かきもの | ナノ


百面相なんて冗談だと思っていたけど、実際そんなひとが身近にいるのだから肩をすくめるばかりだ。無邪気というだけならたいへん結構なものなのだが彼はそうもいかない。しっかりした無邪気、わずかに人びとを休ませる隙があるのだから閉口する。あざとい。ずるいなどと、幼稚なことを思って竜持は首を振った。羨むことは早くも身につけた美学に反する、という面倒な理由をつけてしまう。
「翔クンて、なんといいますか、ある意味黄金比ですね」
「オウゴンヒ?」
「バランスがいいってことですよ」
わあっと喜びかけたところで、お世辞ですけどねとつけ足してやると、それはそれは落ち込んで、ちょっと叩くとうなだれるおじぎ草というのは彼のことだと笑いたくもなる。すぐに回復するのも一興、また一驚でもあった。百面相。ペース攪乱など卑怯でしょ、スタミナ勝負なら敗けだ。呼吸困難、治らない動悸、発症は決まったときだけ、この症状の指す病気とは?まったく彼にも公平なプレーをしてほしいけれど、そうしたところでやはり甘いのは自分かも知れないと竜持は思った。
あえて宇宙に例えるなら彼は惑星、惑いの星だ。不規則を完成としているようなひと。竜持たち三つ子が求めたものに、それは非常に近かったのではないか。もしかしてぼくらが反逆心を持ってわざわざ懸命に曲げたもののようなぐねぐねのレールの上に、彼ははじめから乗っかっていたのではないか……なにも知らずに、それが当たり前のことだと信じて走ってきた。彼が苦労してレールをまっすぐに直そうとしている横で、自分たちはすすんでそれを曲げてきたのだなあと思うと面白いものだった。
「意表をつくことばかりしてくれますよね」
「竜持くんたちには敵わないよなあ、ぼくドリブルまだへたでしょ」
「は……あ、ちがいます、ふふ、そういうところが思いがけないって言ってるんですよ」
サッカー精神、とても立派です、と言うとまた顔を赤らめかけてから「それってもしかしてお世辞!」と大声を出した。さあどうでしょう、ぼくは軽くあしらい笑ってみせる。何重にもひねくれていることをお忘れなく。お世辞と分かっても天の邪鬼なのだ。大きな声というのは、ほんとうは嫌いであるというわけでもないのである。すると彼は竜持につられたか次の瞬間にはにこにことしている。心理面で、言動がつられるというのは相手に好意を持っている証拠だと、何かで読んだ迷信のような知識をここぞとばかりに頼りにするぼくはなんて単純なのだろうと竜持はまた肩をすくめている。








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