かきもの | ナノ


凰壮くん女体化です
(名前はそのまま凰壮です)
(呼び名も凰壮くんです)
苦手なかたご注意

前提の妄想→ブログ追記












微笑ましさと嫌悪感、恐怖感は表と裏なのだと凰壮は思いはじめている。異性の欲というのは、ぎこちない恋人を見ていれば背をたたいてやりたいようなものだけれど、ほとんどの場合はそうではない。凰壮は男というのが好きではない。好きではないというより、怖ろしい。どの人見ても暑い夏の日を彷彿とさせるようで……うしろから伸ばされた手のありか、その感触はまだ生々しく、鮮明にすることを凰壮の体はきっと今でも許さない。心だって。それでも恋の相手がいるというのは不自然だと思っても、彼の誠実を信じている自分がいる。
「ねむってる?」
声がした。ねむっていたとしたら、どうするのだろう?もうすこしで立ち直れそうな気がしていた。傷口を開かない場所に彼はいる。凰壮の意表を突くようなことばかりして、かえって彼女をもどかしくさせるのだった。これが「女らしさ」なのだ、と気がついたものだ。凰壮はなにも言わずに、寝息をたてるふりをしていた。規則正しい息づかいというのは難しいと思う。
景浦はその場でちょっと立ち止まってから、凰壮のねむるベッドの足元のほうへ座ったようだった。彼のベッドを拝借してしまったことに心中舌をだして反省する。重みできしんで揺れる、恋人の匂いがただよう。自分たちもいつかここで……するのだろうか?キスはおろか抱きしめることもできない自分と、それをしない彼とが?夢はまどろみの中に延々とフィルムを流している。
今、しかたないねという風に、彼が夢の中で唇を寄せるのに、怖くはない。ただ目を閉じて、寝息をいつわったまま、凰壮はそれを待っている。陽射しがあたたかくて、掛けたブランケットも、シーツも、頬のすぐ近くにも、やわらかに彼が匂いたつ恋だった。なにもかも心やすく身をゆだねている……水に揺られるように。目を醒まして自分からキスしてみようか、驚くだろう、起きてたのなんて言うだろう。そうしていつもの困ったような微笑のもとに自分を抱くのだ……今度こそ正面から自分を包みこむのだ。凰壮はしっかりした彼の胸に顔をうずめている。しあわせに泣きそうな表情を隠して笑っている。しかし凰壮が自分自身をいだくように、きゅっと体をまるめたとき、まどろみは遠のいてしまった。ふっと開いた目をベッドサイドに流すと、景浦はぼんやりして、だが警護でもするように身じろぎひとつしないで座ったままだった。起こさないようにと考えたすえのことだったようで、目を覚ましたことに気がついた瞬間の彼はすこしだけ硬い動きをしていたのがなんだか奇妙で滑稽だった。
「ああ……凰壮くん、おはよう」
そういうひとだった。なにもかも夢なのに、いつかそんな日が来るのではという期待めいたものが凰壮の胸にはわずかに残っていた。それは真夏の路地を思い出すと露と消えてしまうのに、自分はすべてが怖ろしいのに、まどろみの直後にはたしかにそれを現実にまでひっぱっていられるのだった。「おう、……おはよ」、女らしさのかけらもない普段の口調で返すと、凰壮はあいまいに笑ってみせた。
景浦には凰壮の笑みがとても扇情的に映ったが、彼はそれをひた隠しにして微笑み返した。彼女の体は年に似合わずうつくしいとみなが言うけれど、そして景浦みずからもそう思うけれど、彼女の持つ魅力とはけっしてそればかりでないことを知っているつもりだった。彼女がねむっているときのあどけなさを、ほかのどの男も知らないのだった。だからこそ手を触れないでいたかった。景浦は立ちあがる。凰壮がゆっくりとまばたきをした。
沈みをすぐに戻すベッドにさびしさを感じる。凰壮は彼の座っていたところをうずくまっていた足のさきを伸ばして撫でていた。直接感じられない温もりもそれでいいように思えた。夢は自由だ。想像がなんだって映し出されるから。それがたとえ虚像でも、触れられなくても、目に見えていることが大事だった。やさしさを色に変えなくとも、ふたりはこんなに互いの心を求められるのだった。すべて知られるときが来たって、泣かないでいられたらいいのに……しばらく撫でていれば、しだいに温もりは失われゆく。それがどうにも切ないので凰壮はまた両足をひっこめてブランケットを頭からかぶった。それは彼女を女性にするための、空しくもあたたかい抱擁だった。






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