かきもの | ナノ


「とっても、すてきだなあと思うの」
ちいさく細い声で彼女は言った。恋愛というのはあまり興味もないし、慣れてもいないのだが、そんな雰囲気を醸しださないすっきりとした話し方をしていたので、下手に居住まい正すことなく自然に話を聞けた。
「あなたはひとりの寂しさを感じたことがないみたい」
「なぜ?」
「飾らないひとだから」
申し訳なさそうに笑う。きれいな顔立ちでも、実のところこの態度は景浦にとって疑問であった。非がなければ堂々としていればいいのに、彼女は奥ゆかしすぎる。飾るとは外面のことか、内面のことを言っているのか、どちらにせよ彼に関わりはなかった。
「きみは飾っているの?寂しいから?」
控えめな声で「わからないの」と返ってきたときは、矛盾を感じた。きらびやかにすることが「飾る」ことではないのだろうか。彼女はそんなふうではないけれど、そうすれば、ちがう定義を持つのだろうか。
「わたしは、ほんとにわたしがわたしか、わからなくなっちゃう……いつも自分を見失わないあなたが、とってもすてきに見えるの。だから、機会があったらお話ししたかった」
「自分を持っているというなら、降矢くんたちだってそうじゃないか」
ちがうわ、と彼女はまた首を振った。むずかしいひとだと景浦は思った。ただ、しっかりと答えを返してくれる、知的なひとだとも思った。
「降矢くんたちはちがうの。自分はあっても、あなたとちがって寂しがっているように思う」
寂しいという語も、飾るという語も、なんだか解らなくなってしまった。景浦は黙った。ちいさな声でも、はっきりとものを言う。むやみなことではないようだった。
「あなたは間違っていると思ったら、ただしく排斥することができるでしょう?きっと」
ひとりの寂しさを感じないというのは、そういうことよ。大人のように彼女は言った。「それが、きみはすてきだと思うのか」と景浦は口に出していた。自らの言葉に含んだ本意すら分からないままのことだ。しかしながら答えを待つことなく玲華はひとこと、「わからない」と申し訳なさそうに返した。
「そう、」
「でもわたし今……たしかに、『すてきだ』と言うことであなたから遠ざかったの。それだけはわかるわ」
玲華はそう言って、自分も景浦から一歩離れた。別れの合図であった。「伝えたいことは伝えたから」、彼女は言うけれど景浦には彼女の言わんとすることが何も解らないままだった。ただ自分はひとりの寂しさをほんとうに感じないのか、それが皇帝のありかたなのか……そんなことが彼の頭のなかを支配して彼女の姿が遠ざかるほどに離れなくなる、それだけは変えがたい真実であった。







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