かきもの | ナノ


角しかない口調のなかに、なめらかな心のあるひとだと思った。間延びした返事など、切っても切れない柔軟さがある。自分にはそれがない。少しだけとは言わない、景浦は凰壮を羨ましく思う。
「勤勉だ」と言われることが誇らしくなったのはもうずっと前からだ。続けさえすればなんだって上手にできるようになるのが楽しかったし、自分にはそれが必ずできると信じていた。事実そうであるから今まで続けてこられた、景浦にとって、「王」の言葉は血を意味しない。ただ、同音の凰が血のように赤く、彼を揺らがしたのだった。
「すこしの風では倒れないけれどね」
「そりゃ残念だ」
「対等に、きみをすばらしいと思ってるんだ」
「似合わねえ賛辞をどうも」
真実も軽く流す。親愛をこめて握る手はすぐに離される。こんなひともいるのだ、わずかに驚嘆と好奇心が右手の名残を惜しくした。流したように見えて、どうせ聴いているのだろう。いくらだって覚えているのだろう。決して自分を否定はしないが、こんなふうに生きられるのも、器用で良いと思った。まるで対極に生きていた。そんなひとと相まみえるというのがなんだか面白くて、「これからもよろしく」という声に交えて景浦は笑う。眉をよせながら「はあ」と短く応える姿が、やはり対極の体を見せていた。
「あのさあ、言わなくてもいいことだけど、あんたって見てて窮屈そうなんだよな。疲れないわけ」
「ぼくにはこれが丁度なんだよ。きみにきみなりのやり方があるようにね」
「ほんと、すげえな」
肩をすくめた声がめずらしく、年にふさわしい子供のような純粋を帯びているのに気づいたのは直後だった。あくまで自然でいるのが彼のスタンスのようだった。「今、ぼくを誉めた?」思わず口に出すと、彼はなんともないようすで「そうだよ」と返してくる。はじめから、倒すために吹く風ではなかったのだ。
「だったら凰壮くん、きみだって」
「おれは別に……そういう良い子じゃないからさ」
わざとらしく言ってまた眉をよせる。ああ、対極というのはつまり同じということなのだ。単純に、こうなりたいとかいう思いではなくて、これは互いに完成された賛美だった。ただ彼が空に生きて、自分が地を歩くというだけのことであった。もう行くから、と凰壮がゆるく駆け出す。笑いもしないが嫌味もない乾いた風だ。また会おうと背中に声を掛けながら、彼はたぶん、春生まれなんじゃないだろうかと、景浦はぼんやり思っていた。







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