かきもの | ナノ


恋、の概念を虎太は知らない。ただしなんとも不自由でたいへんにエゴで固められていることだけ、竜持から聞いている。虎太は恋を知らないし、しない。欲しいものは妥協しなくても、そんな束縛されたエゴだらけのものを彼は欲しがらない。
それは竜持にとってこの上なく至福であった。彼が恋をしない!虎太は永遠に三つ子であり続ける、ぼくらの兄弟であり続ける!大人への憂いはもう必要ないのだった。竜持は穢らわしさを排斥したがった。数字がたとえすべてをぴったり表せたところで、他方、いつまでもモラトリアムは崇高でうつくしいのだと信じていた。

いいですか虎太クン、ぼくら子どもの目標は一択、大人になることです。でもただ大人になるだけじゃだめです。大人っていうのは……きみもよく知っているように……平気でひどいことをする。そうならないためには子どもの気持ちを知らなきゃいけない。子どものまま大人になりましょう。きれいなままですよ……それがぼくらの目標、わかりますか。恋だなんていけません。なれの果てが目に見えてる。彼らは何もかも棄てるんですよ、たかが恋ひとつのために、血のつながりだって疎かにしてしまうんですよ。醜いものですよねえ、ええ、醜いんです。たぶん、きっと、確かに。ね、虎太クンはちがうでしょ。いつまでも。

虎太は口を挟まず黙って彼の話を聴いていた。竜持はまるで大人のようだ……と思いながら。ゆえに返事だってしなかった。虎太には彼の言うことがきちんと分からなかったが、ただひどく嫌な気持ちだった。ちょうどいつも大事にしていたものがなくなったように、心はぼんやりかなしかった。今喋り続ける竜持の言葉が、いつものゆっくり納得できるものじゃなくって、音声メディアみたいに薄っぺらい。
「聴いているんですか、虎太クン」
「うん、でも、わかんねえ」
虎太は言う。彼はとても純粋だし、また正直だった。
「なんで今日の竜持は自分勝手で、おれたちを不自由にするようなことばっかり言うんだ?」






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