かきもの | ナノ


「そうですね、どうしてこんなふうになったかって言うとやっぱり、環境のせいなんじゃないですか。例えばの話をしましょうか。
つくった砂のお城をこわすと、大人はせっかくつくったのに、って怒るんです。だけど、こわすのにもちゃあんと、理由があったんですよ。なんだかお分かりですか……ねえ、分からないのは、コーチがもう大人だっていう証拠です、ほんとうは誰にだって伝わるはずなのに捨ててしまったんだ、……ぼくらも……
ぼくと凰壮がさめた子どもだったのは案外今と変わらないのですけど、虎太はふたりぶん余計なくらい、あんまり純粋でした。ぼくたち、そういう虎太がすこしうらやましかったんです。ひねくれたとこがなくって、楽しいものを楽しいと言える心を。それだけのことでした、それだけでよかった、じゅうぶん素朴でしょう?なのに大人はそれを平気で奪ってしまうんです。彼らにだってたくさん理由があることくらい知っています。でも、子どもにそれを知らしめた上にまだやわらかな金属をぐにゃぐにゃにねじ曲げて戻せなくするなんて、あんまりひどいじゃありませんか。解りますか、かわいそうな虎太くん、てぼくは思ってるわけです。いいえ虎太だけじゃあありません。価値観の押しつけがどれだけ子どもを束縛し殺すか知っていますか?彼は……虎太はばかですから、斜に構えてものを見られなかったんです。笑うでも怒るでもないまっすぐさ、好きだったのに、ほんとにあの虎太ってば、ばかなんですよ。つらいの知っているくせにねえ……つらいものの後が解らないんです。つらいことは断続的に起こるのではなくすべて繋がって、関連性を持っているのだということを知らない。苦しいばっかりじゃありませんか、そんなの。虎太は泣きません。でも、我慢強さだけ育ったって結局は何にもなりはしないんです。
まっすぐ伸びすぎた植物は、ひねくれながら伸びた植物よりはやく切られてしまうでしょう、同じこと、まだまだ大きくなるはずなんです。はずだったんです。みっつの並んだ植物は、同じように見えて違い、でも結局は違うように見えて同じでした。ぼくたちは……ぼくたちは、植物のように再び成長するすべを知りません。能力は成長するでしょうけれど、反動のように大事なものを失ってゆく。子どものころに見つけたものをなくしてしまう。いずれまともに笑うことも忘れてしまうのかな、なんて……やっぱり太宰は頷けますよねえ……そうするとね。大人は突然、手のひら返したようにぼくたちを疎むのです。子供らしくない、つまらない……むしろ面白いほど勝手な理論……理論ですらない、感情論じゃありませんか!駄々をこねて買ってもらった玩具に厭きるのに似ているでしょう?彼らは子どもなんですよ。それも芸術性にすぐれた子どもなんです。冗談にもならない話、ですよね。ねえコーチ、あなたを今ぼくが定義した『大人』の類に属さないと見込んで話をしているんですからね、なに、俺はじゅうぶん子どもだって……ええ、そうかも知れませんね。だけどほんとの子どもは、自分が子どもであることになかなか気づけない、または意味を見いだせないひとたちなんじゃありませんか。

ぼくたち、まだ子どもでいられるでしょうか?その特権を無邪気に振りかざして、叱られたりしないかな、がっかりさせたりしないかな、と思ってしまう……そんなことない……そうですか……もし、コーチの言ったことが正しいなら……数字の羅列のように純粋に、なんのトリックもなく、誰かに何かをねだって、伝えてみたい。ですけど、そうして傲慢に他人の顔色をうかがって生きることがぼくたちから、ロスタイム遣ったって取り返せないものを奪っていくんです……今も……この瞬間にだって」






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