かきもの | ナノ



どこを歩いても視線を感じるのです。普段彼らは大層無関心ですが、視線を僕に向けるという行為だけで何らかの関心を持っているということになります。
僕が目を開けて意識的な呼吸をしているとき、つまり起きているとき彼らの視線は大概遠慮がちに向けられます。しかし僕が睡眠状態にあるときは無遠慮に、嘗めるような好奇の目を僕に向けるのです。眠っていても僕には分かります。
夢の中で僕は虫になっています。人間は僕を害ある虫といいました。家族はみんな死にました。大きな背高の人たちがこぞって僕の姿を見ようと周りを囲みます。僕は人間に毒を抜かれたいわゆるペットめいた虫であるので、抵抗するのは諦めました。夢の中で見る人たちは皆同じ顔をしています。男は男の顔、女は女の顔。しかし僕はある日異端者を見つけてしまった。見知ったようなそうでないような一種こころ苦しい気持ちになるプラチナの髪色、好奇のちらつかないぬばたまの目。助けを求めたくて彼のもとへ駆けてゆこうとしても僕の六つの脚はとっくに潰されているからだるまのように留まることしかできないのです。僕はせいいっぱい、声を張り上げました。
かすれた悲鳴で目を覚ましますと、覗きこむのはプラチナの髪色、ぬばたまの目。世界中の好奇の視線は今もなお遠慮がちに向けられています。だけどそれでもいいのです。僕は豪炎寺くんの胸にそっと顔を押しつけました。僕より日に焼けているでしょう彼の腕が、こんなにも気持ちの悪い僕を嫌がらずにぎゅっと抱き返してくれます。潰れた前脚をやさしく握っていてくれます。誰かが僕を噂する声が聞こえないよう、耳を両手で覆ってくれます。
僕には君というあたたかなコロニーがあります。僕には帰る家があります。だからもう、何も怖くなんかないのです。






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