かきもの | ナノ


午前一時半、珍しく鳴った電話の内容は「飼ってた金魚が死んじゃったよ」という一言に限られた。いつ、飼ったのか豪炎寺は知らない。姿すら見ないものに哀愁も悔やみもないが、電話越しの声はすこし不安だった。
「飼ってた金魚が死んじゃったよ」
「さっき聞いた」
「それが、あんまりひどくってね」
「猫にでもやられたのか」
それでも夜中の電話は不機嫌を募らせる。いつもより突き放している気がした。女のような口調が今は苛立つ元であった。なにより、大事なペットの訃報であるにも関わらず彼があまりに穏やかだった。そんな悲しむまでもない話なら電話を掛けるなと言いたいが、そこまで突き放す冷たさもない。
「ううん、さっき帰ったらね、水槽の外で干からびて死んでいたの」
「外」
「そうだよ、元気がよくってさ、飛びだしちゃったかなあ……僕どうしようもなくってね……」
「……」
「あーあ、大事にするほど、こんなにあっけないの……ふふ、おかしいよねえ……」
「……」
「……ねえ……」
黙っていた。通話を切ることもなく、電話越しのうつろな滑稽さをこちらで静かに感じていた。彼の周りでは命が渦巻くように思える。どうにもできない死が取り囲んで離さない。それでも微笑で済ませてしまうことをかわいそうだとは思わないが、なぜなんだろうとは思う。なぜ彼ばかりなんだろう?もしかするとそれが、詰まるところの「かわいそう」なのかも知れなかった。
「なあ吹雪」
「……なあに」
「おかしくないときは、笑うなよ」
何度も告げている気もする。吹雪はまた笑ってしまったなあと、指導者や保護者のような気分で、さも裏切られたかのように落胆している自分がいる。裏切りではない。傷のクレバスを埋めることができない自分がやるせなくて仕方なかった。深夜の無音は無情だった。
「ごめんね」
「違う」
「どうして違うの」
「違うんだ、」
このとき、吹雪はどんな顔をしていたのだろう。分かっていなければならないことを、自分はなにも知らないのだと豪炎寺は思う。それすらエゴとして扱われるのであれば、いっそ水槽から飛びだしてしまいたいなどと考えてしまっている。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -