かきもの | ナノ



窓枠の中で真昼の雨が降っていた。陽に燦々と照らされるものはなかなか、趣を解す。冬でもこんな日は暖かい。
「ふふ、狐の嫁入りだ」
「ああ」
「今日は外に出ちゃだめだね」
「そうなのか」
吹雪はまた微笑した。しとしとと窓を濡らす水滴が、色を吸うように金にきらめいていた。流れていく。
「式を見たら二度と帰れなくなっちゃうよ」
「知らなかった」
「映画、観たじゃない」
夢十夜だった。謝りに行こうとする場面だけやけに覚えている。吹雪はあの話ばかり何度も観返していたのに、記憶に残らないものだ。深い緑、竹林、逃げていた……
「逃げたんだっけな」
「そう」
「ふうん」
「豪炎寺くん」
吹雪がついと手をとった。しなやかな指を絡めている。ぼんやりとした輪郭の中にはっきりと瞳孔の覗く目だった。確かに吹雪はそんな人間をしていた。一見して無彩色に見える色素もそうではない、うすく青や紫を貼りつけている。毛皮の価値の高さを彷彿とさせた。
「なに考えてるの」
敏いところがあった。そばにいる人の感情を察知するのに長けていた。逃げたことを謝罪するのか、見てしまったことを謝罪するのか、正しくは解らなかった。吹雪なら解ってくれたのだろうかと片隅の思考をしていたところだ。孤立を怖れるやさしい獣だった。
「なにも」
「ふふ、なら良いんだ……」
安心不安紙一重の長い吐息、彼は微笑が好きだ。真白い牙を首筋に寄せて甘噛みされるのがどうにも心地よかった。やわらかな髪を撫でると背中に腕をまわされる。そのまま嬰児をあやすように背を愛撫され、随分と眠たくなってしまった。
「眠いの?」
「すこし」
「隣で眠ってもいいかな」
「ああ」
雨音は気怠げに弦を鳴らしている。そろそろ式の終わる頃だろうか。






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