かきもの | ナノ



布団を何枚もかぶって眠る、すると豪炎寺くんが寄り添ってくる。
「毛皮のつもりか」
「雪の重みに耐えうるための練習」
「ばか」
冗談めかして昔の話さえできるようになった。彼は心配するけれども、やっぱり笑ってくれる。怒ったふりはいつものことだ。頭をはたく力はほんのわずか、ないのと一緒。彼の気持ちの重みならすこしは耐えられた。覆い被さって、簀巻きをわざわざ科する僕の目元に口づけをしてくれる。隣人の罪を許すところは甘い。
「ほんとうに、毛皮だったらいいのにねえ」
「なんで」
「きみを乗っけて、どこまでも旅ができるじゃない」
豪炎寺くんは僕の背中の上で感嘆の声をあげる。今まで、子どもらしい一面をたくさん見つけた。意外と好奇心旺盛なことも知っていた。年に似合わぬストイックさは僕とは合わなかったけれど、不思議なものだ。
「乗ってみたい?」
「疲れないか」
「平気、ずっと走っていけるよ」
僕はふと、狼の背に乗って荒野を駆ける彼の姿を想像した。止まるたび労ってくれるだろうか、撫でてくれるだろうか?月の満ちた夜はともに鳴いてくれるだろうか、月の無い夜は泣いてくれるだろうか?どこまで旅をしよう。たとえば森の奥で彼とふたり暮らすのも悪くない。月の映る凪いだ湖を、静かに眺めていたかった。
「乗ってみたい」
「できたら、どんなに良いだろうね」
そんな夢を見たい。豪炎寺くんは僕の顔を覗き込んでいる。だけど、と彼が口を開いたとき、僕はカーテン越しの星空を見ようとしていた。思いをめぐらすのは得意だが、伝えるのはひどく難しいのだ。
「俺は、吹雪がいちばん好きだ」
「……うん」
「舵をとるのは俺だけじゃないだろう」
「うん、」
僕が僕で良いことを認めてくれたひと。ときに率直にものを言うひと。そして僕を驚かせるひと。吹雪士郎の毛皮の中にそっと入ってきた彼は、心の中だけで一体化を求めていた。解らなければ知りたいけれど、強制こそしない。獣の体温で暖をとるような牧歌的な生活を、こんなふうに彼としていたいとまた夜に思いを馳せている。







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