かきもの | ナノ


ほうり出された絨毯のつめたさを思いだして僕が笑うと、豪炎寺くんは眉根を寄せた。
「あの絨毯ってばねえ、あんまりつめたくって、さくさく音がするんだよ。僕はずっと絨毯にくるまっていて、そのあと気がついたら、車の中でふかふかの毛布に包まれていてね、あったかいココアを渡されたんだ。それがおいしくてね、そう、ココアが好きだからとてもおいしかったの、寒かったからすぐに飲み干したかった。だけど喉を通らなくて、シートベルトがきつくて、僕が座っているのは後部座席の運転席側のシートだった、だけどそこはアツヤの定位置で、窓には落書きの跡が残っているはずなのに見当たらない、じゃあ僕はいったい誰の車に乗っているんだろう?今まで僕は何をしていたんだっけ?車に乗っていた、いつもの後部座席、助手席側のシートに座って、今日試合したサッカーのはなしを、アツヤと、みんなと、僕はそれからつめたい絨毯の上にいて、ああ置いていかれちゃったんだあ、みんな僕を置いてけぼりにして、後部座席が片方空いたままで行っちゃったんだあ、僕はひとりぼっちになっちゃった、アツヤの席を陣取って、まるで何もなかったみたいに、ココアが熱くって舌を火傷してしまいそうだった、隣のひとは誰なの、僕なの、僕がアツヤなの、吹雪士郎がアツヤなの、吹雪アツヤは、吹雪士郎なの、僕はココアを無理やり胃に流しこんで、熱いものが喉をすべり落ちる、それは心のかたちだって、信じて、案の定しばらく経ってからアツヤが話しかけてきて、おいおいシュート下手くそだなあって、俺にボール貸せって、アツヤが、ひとりぼっちの僕と一緒にいてくれるようになって、アツヤが、僕の話し相手になってくれて、だけどみんながアツヤくんは死んだよなんて言うから僕もうわからなくなっちゃってお骨もないのにそんなこと言って嘘ばっかりだアツヤはちゃんとここにいて僕の悩みごとも聞いてくれるし僕をひとりぼっちにさせないんだって怒ったら吹雪くんいつも誰とおはなししてるのって変なめでぼくを見てんだいっつもいっつもサッカーのときばっかり僕をほめる人たちはホイッスルが鳴るとかわいそうって僕をわらって指さすんだでも僕はね、僕」
「吹雪、」
豪炎寺くんの甲高くない声が僕を突き刺した。咎めるのではなく、哀れむのでもない、妙に感情を押し殺した声……
「あ、……あ」
「もういいんだ」
寝転がったのは雪の上ではなく、僕は豪炎寺くんの暖かいベッドの上で、彼を抱き寄せていた。ごめんね、と泣きながら謝ると彼は細く長く息を吐いて目を閉じ、「キスしてくれ」と囁いた。その手は僕の背に置かれている。シートベルトより緩やかな拘束を噛みしめながら、僕たちは眠るための挨拶をした。いつの間にか彼に覆い被さるような形になって、長く長く、僕は酸素すら許さなかった。そのとき彼の頬に当たって流れた水滴は温かかったのだろうか。






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