ねためも | ナノ








ヒロトは普段はあれな割に、ふたりでベッドに入るとやけに大人しくなる。ほとんど何も言いたがらず、たまに口から零れるとすれば…だめ、とか、円堂くん、とかしか言わない。
俺はヒロトに促されるままセックスをしている訳なんだけれども(実はいまだに過程がよく解らない)、それでもあまりに無口すぎて、時折心配になったりは、するのだ。
「あ、あのさヒロト…気持ちよくない?痛い?」
「…ううん、気持ちいいよ、」
すごく気持ちいい。ヒロトはそう言って微笑するとまた沈んだ顔をして、ぎゅっと俺の背中を抱き寄せた。多分、もっとして、の合図だったと思う。それはどうやら、もどかしくなるとついやってしまう癖らしかった。うーん。俺はどうも腑に落ちないまま、ヒロトの右脚を抱え直す。いつもそうだ、人を愛することはこんなのよりずうっと、熱くて楽しいはずなのに。
「…なんか、違うんだよなあ、」
「え?」
思いがけず口から出てしまった言葉を取り消す時間は無く、ヒロトはその真意を訊こうとする。何でもない、と言っても新たな誤解を招き入れるだけなので、伝えるべきか迷ってしまった。「あ…えっと、あの…ヒロト、が…何考えてんのかなあって、」
いつも落ち込んでるから、と付け加える。ヒロトは真っ白い肌を上気させたまま下らないことなんだ、ごめんねと言った。
「すこし、不安なだけ」
「不安?俺、やっぱ下手くそかなあ」
今度は俺が尋ねる番だった。ヒロトがベッドに肘を着いて上体を起こす。スプリングがぎしぎしと鳴いた。生き物みたく。
「そうじゃないよ。円堂くん、とっても上手いよ。俺が不安なのは全部、俺のせいなんだ」
「そうなのか?」
「うん、あのねえ…あ、聴いてくれる?…ありがとう。
俺はね、たまに、いやしょっちゅう。自分がいないような気がしてすごく怖くなっちゃうんだ。俺はヒロトなんだけどね、ヒロトはヒロトでも吉良のほう、って感じで」
どうも、ねえ。ヒロトは笑ったけれど、隠しきれずに溢れた感情が涙となって流れ落ちた。俺はいたたまれなくなって、裸のまんまで寒そうなヒロトを思いっきり抱きしめてみる。驚いている。
「あのさ、俺は…あの。ひとりのヒロトしか知らない。だってさ、その…瞳子監督のお兄さんはもう死んじゃってるから。だから、いやだからっていうか、俺は基山ヒロトしか知らないし、基山ヒロトが好き、だな」
何て言ったらいいか分からなくて、こういう雰囲気が苦手で、傷つけちゃってないか心配で顔も見られない。俺何て言ったの?俺はヒロトの肩に顔をうずめる。と、首筋に水の感触。(泣いている!)どうしよう、やっぱり俺変なこと言ったのかもしれない。
「…えんどうくん」
ごめん許してくれ。言い訳をもっと考えよう。何にしようどれにしよう。
「ありがとう。俺も円堂くんが大好きだよ」
顔を上げた。ヒロトは笑っていた。彼の笑みっていうものはいつもいつも何かを隠したいときのものだったから、俺はもう信じないぞ!と言って抱きしめる腕に力を込める。ヒロトはゆるゆると首を横に振った。
「ほんとうだよ」
今度は微笑みはなかった。やわらかいけれども真剣そのものの声でヒロトは流れるように紡いだ。それはとても新鮮なもので、だからこそ慣れない。でも俺はようやっと自己を確立したらしいヒロトを信じることにした。ヒロトがまた俺の背を抱き寄せるから、続きをしなくちゃ。きっと今度は、いろんなことを話してくれる。








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