ねためも | ナノ






「僕たち、ずっとふたり離れないでいたいよ。ずっと一緒にいて、ずっとサッカーしていたいな」
吹雪は未来を信じる目で口調で語り、そして笑う。殺人鬼の振りかざすナイフの閃きに似た言及する所のない完成美に、豪炎寺は少なからず戦慄した。それは誰にも邪魔されない誘惑だった。しかし豪炎寺は眉をひそめていた。その一言が自分に向けられるべきものではないことを知っていたからだ。彼は相手のそれに触れることは永遠に無いであろう唇を震わせた。幸福を享受するのは間違いだと気づいていたのだ。吹雪は錯覚している。
「僕たちきっと、ふたり揃えば」
「……お前は勘違いしてるんだ」
「なにを?」
「お前が見ているのは俺じゃない」
冷たい風が頬を叩くのを豪炎寺は感じた。その冷たい訳が涙である可能性を彼は信じたくはなかった。こんな幸せを自ら捨つる馬鹿は世界中で俺ひとりだろうなと彼は自分を揶揄した。けれども表情にはニヒルな笑みすら浮かばず、唇を噛みしめるだけに終わる。吹雪は理解し難いという風に首を傾げている。首に巻いた白いマフラーだけが、降伏の旗のごとくたなびいていた。
「ねえ、またすごいシュート見せてよ!」
無邪気に言うその言葉ひとつひとつの軽やかさが辛いのだ。吹雪が見ているのは彼の一番身近に居たであろう存在、形を変えて今も背中合わせに生き続けるあのストライカーの面影でしかないのに。豪炎寺は悲哀と憤怒とでわななく指先を丸めた。否、怒り、とも違う……これもやはり別種の悲しみでしかないのだろうか。「どうして真っ直ぐ受け止められないんだ」と言おうとしても、自分には喪ったときの苦しみが嫌というほど解るから(それは相手にとってただの困惑でしかないのに!)言えないのだ。弟妹を喪った悲しみが……自分は未遂だった、しかし喪ったことと仮定したらば自分は彼と同じ道を辿ったのではないか、豪炎寺は思った。子どものままで止まってしまったような吹雪の純真な笑みは生きて呼吸を繰り返す自分に投げかけられることなどない。




120512 川岸は青信号




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