ねためも | ナノ


成人






深夜、酒と香水のにおいを服に纏わせて彼は帰ってきた。女の饐えたにおいだ。ベッドで無造作に寝転がる自分の耳元で、笑いの混じった挨拶が聞こえてくる。
(今日は何人抱いたのか、昨日は、明日は明後日は)
いつもと同じように愛せるはずだったのに、寝覚めの自分は思い通りにはいかない。ふてくされた子供の言葉で彼を部屋に置き去りにして入浴しに行き、解らないという顔のまま、それでも追いかけてきた彼と蒸し暑く濡れたバスルームで抱き合うんだけれども、つらく思われるのみだった。自分は決してこのサイクルから逸した存在ではないのだと、一度考えてしまうと身体が気持ち悪くて仕方がない。互いの独占を求めるのは、詮索をしたがるのは愚者のすることだと解っているのに自分はなぜだかとても寂しいのだった。理由のない寂しさで彼から必須の自由を奪いたくない、自分にとって自由は必須ではない。彼は何をしても許されるけれど自分は許されてはいけない。嫉妬は醜い。自らの決めごとを壊したくなかった。
消えていきそうだ……息を詰まらせた自分を吹雪は不安げに見つめて名前を呼んでいる。のぼせたの、苦しい?心的に正しい言葉にも頷けず整わない呼吸が胸を何度も衝いている。抱っこして連れてってあげる、もう出ようね。ごめんね、ごめんね。今冷たい水を飲ませようね。ごめんね、ごめんね。
(その言葉は明日、別人に紡がれるのか?ちがう、謝ることないんだ、俺はなんて情けない)
確かに誰より愛されているつもりなのに、自分はこれ以上何を欲しがろうというんだろう?





120503 軸のないコンパス




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