ねためも | ナノ


遅ればせながら、4月1日





エイプリルフールなんて適当な名前つけちゃって、エイプリルじゃなくてもバカなくせに。毎日うそつきな割にはそういうことを正当化したいってのもあるんだろ。弱いなあ。
「やーだやだ、八方どこ見たってうそうそうそ。みんなうそついて、4月1日だからでしょって、結局バレちゃうじゃん」
「僕は楽しいと思うけどなあ」
「吹雪さん、」
微笑をはっつけて登場したひとは、存在自体うそくさい。東京はあったかいのにわざわざファー付き着てるし、うそまみれだ。
「だって、いつもうそついてるから、そういうひとは不利です」
「ふふ、まるで狼少年だね」
吹雪さんの声が穏やかに笑った気がした。人狼らしく月を好む。普段隠れた牙は、顔を近づけると良く見えた。
「どうせ信じてくれないんだもの、たまには本音を言ってみたら」
「本音」
「虚言に混ぜたら怖くなんかないだろう?」
棘を含んでずけずけと言うこと、何も言わずに笑ってやりすごす方法しか知らなかった。愛想よりは嫌味のほうが好きだった。動物みたいだと言われた。人間でいるよかマシだった。
「本音をうそに混ぜたこと、吹雪さんは」
「まさか。ないよ」
吹雪さんは自分の首に触れた。良く見る動作だったけれど、それがいつ現れるかまでは分からなかった。
(もう数年でも長く居たら、分かるもんなのかな)
(知りたくは……ない、たぶん)
「うそですか」
「野暮なこと訊くなあ、よくないね」
牙と爪……狼は爪を隠せない。大事にしたくて風船を割ってしまうことだって、たくさんあったはずだ。それを悪と取るか、悲と取るか、矢をつがえて黙って見ていることはできそうになかった。昔のひとりを重ねて、ともに月を見上げるくらいだったらできる気がした。
「やっぱエイプリルフールは嫌いです、なんか分かりづらくて」
「お似合いだよ」
「もっと似合うひとがいますから遠慮しときます」
くく、喉で笑った、嫌味に聞こえないのは進化の段階で爪を隠す方法を見つけたからだ。孤独を知りながら生きることを強く守ろうとするなんて、誰かを思い出させるような、そうじゃないような。



120402 藪のなか




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -