ねためも | ナノ


テイルズオブ




長い睫毛のまたたきを聴いた。それほどに近かったのか、空間が静止していたか、定かには分からなかった。子供っぽい色をたたえた髪、ダイアモンドの目だ。噛みつく人柄に反して臆病者に見える。
かすれて笑うのは癖らしい。たまに聞く、届かせようとする声も昔の名残だろうか。自らの居場所を作ろうと躍起になっている人間だった。但し安い金属音ではない。良い鋼を使っている剣は、深みのある音を立てる。
「あー、年上って嫌いなんだよなァ」
「なに、幾分も変わらねえだろが」
「は、みんなそう言うぜ……そのくせすぐ嫉妬しやがって、あいつらァ女だ」
「へえ」
面倒な半生らしい。もう少し流れて生きられれば良いものを、楯突き刃向かうことしか覚えなかった。聞けば前世の硬い鋼はなかなか曲がらないようだ。血を吸って生きたのに違いない。
「……チ、ヤツらイカレてやがる!」
スパーダは舌打ちした。根付いたものでないことは見抜けた。あれは根付かせたものだ。兄弟の話をするとき、普段だらしなく開かれた脚を堅く組むのも、我ながら良く見ていると思う。
(なんだか、ね)
「……世界にゃ、騎士になりたくてもなれなかったヤツが、たくさんいるんだよな」
ひとりごとに、なってしまった。スパーダは唇を噛んで黙っていた。幸福を自ら捨てた男をどう思うだろうか。価値観の押し付けがいちばん嫌いだが、彼はそうしないような気がした。
「守りたいものがあれば、それはもう騎士だ」
肩書きなんて俺ァ要らねえんだ。子供のころ、兄たちの前でその言葉を吐き出したら幾らか楽だったろうに、背負ってきたものは剣ふたつでは運べない。
「重かったろ」
「……オトナさまに、解るかよ」
「さあね」
これが根なら良いものを見られた。不躾な慰めしか知らないからあえて沈黙していれば、重いぜ、とスパーダは気違いめいた笑いを漏らした。
「オトナがつくった重みだ」
「なに……幾分も変わらないさ、俺もお前も」
残酷な台詞だった。オトナとコドモの境目に彼はいる。自ら深く溝を掘って逆らえない時間に牙を剥いている。心だけはいつまでも溝を渡れないなどというのは、たとえ他人であろうと御免だった。




120326 星と隠者




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -