ねためも | ナノ




羊の殺しかたを知っているか、とシュウは訊いた。知らないことがあるなど言語道断である、教えてくれと俺が言うと彼は安堵したように体の緊張を解き、「知らないことがあったっていいんだよ、知らないほうがいいこともたくさん」と呟いた。
「ボクはイスマイルの首を飛ばした」
「飛んだのは羊の首だ」
「知ってるじゃないか、でもボクは違う」
シュウはまた暗く影を落として、陰湿になりがちな目を遠くへ遣った。レンブラントを思い出しているかも知れなかった。
「父親は自分だと?馬鹿馬鹿しい、自ら手すら掛けていないのにか」
「同然だよ」
ありもしない話を誰しも信じて、無駄に命を消費している。神など頼って何になる、命と引き換えの安泰、そんなもの要るものか。
「お前は一神教か」
「ボクたちは、そうだね」
「信仰心の厚いことだな」
「……きみはボクを怒らせてどうしたいんだ、白竜」
表情ひとつ変えず見据える目はなかなかのものだ、冷徹を持ち合わせている。容赦のない切り捨てを得たのは一匹の大事な野羊のためだろう。わずかに冷えた指先を丸めて隠した。
「今夜あたり、馭者座が見えるな」
カペラを捜したらどうだ、と残して踵を返した。シュウは「カペラ、ちいさな……」と小声で囁いてからわずかにうつむき、うろおぼえの、たどたどしいレクイエムを口ずさんでいた。高い声は泣き声にも聞こえる。憐憫すらひとに頼れない姿は、もはや生きることを止めたようにすら思えるのだ。

Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.




120215 バフォメット




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