ねためも | ナノ







きっとひとつとて間違いなど無かったのだ……大きな手のひらのぬくもりも、彼の印象の大半を占める明るい笑顔も……胡蝶の夢では無かったのだ。ただそのぬくもりはグローブ越しに感じることしか無く、その笑顔の総てが自分に向けられることも無かった。つまり何も無かったのだ。朝になって目を醒ましてカーテンが揺れ、ああ今まで見ていたもうひとりの自分は嫌な夢の中の自分で本当の基山ヒロトはきちんと眠りに就いて今こうして朝日を浴びているのだなあとほっと息をつく、それと同時に彼の総てが消えていってしまったのだ。姉さんが何事も無かったかのように朝食の完成を告げる、ただし父さんはどこを捜しても居ない。何も無かったのだ。俺は彼が言った言葉を何度も反芻した。また会おうなどと残酷な子供じみた台詞を言った彼は笑っていた。俺はグローブを外した彼の手を想像して起きた自分の身体の変化に嫌らしくも従った。きっと無骨なそれである。がしかし実際にそれを目の当たりにすることは二度と叶わないのだから、彼は永遠に俺の虚無感に伍する英雄となるのだろう。俺は身震いした。長い長い夢の中で、俺の報われない初恋も終わってしまったのだと、涙を流すこともできないのだ。







110615 無の垂るる空を見よ




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