アンタのことは、嫌いじゃなかった。情けなくて、頼りなくて、私達みたいな年下の女にいいように使われてて。だけど、疲れているのを一番先に気づいてくれたのはいつだってアンタだったんだ。

(…ねえ、浜面)

伏せていた瞼を開けて、前を見ると、映るのは見慣れた仲間だった少女の姿。いつも上品に整えられた髪は乱れていて、グロスの塗られた艶っぽい唇は凶悪な笑みを浮かべていて、機嫌が良い時は優しく名前を読んでくれた彼女は、もういない。
自分がいけないんだって分かってる。言い訳なんてしない。だけど、だけど。

(…結局、終わりがちょっとばかし早くなっただけだったわけよ)

馬鹿みたい、と声には出さずに呟く。私の反応が気に食わないのか、目の前の彼女は下品な言葉で私をなじった。恐怖を駆り立てるような声も、感覚が壊れてしまっているのかよく聞こえなかった。

(なんで、こうなっちゃったのかな…)

ろくでもないことばかりしてきた自覚はある。だけど、自分が死体にしてきた奴らに対する懺悔なんて浮かばなかった。第一、今の自分に懺悔する時間なんてものは残されていないだろう。
やってないことなんてごまんとある。果たせなかったことなんて、数え出したらキリがない。
そんな中で、考える。
絹旗に映画に付き合うって約束してた。滝壺と今度一緒にクッキーを焼く約束してた。浜面に、誕生日プレゼントをあげる約束をしてた、のに。

(…ぜんぶ、もう出来なくなっちゃったな…)

皆、無事だろうか。
聞くに耐えない声で笑う目の前の彼女から無理矢理視線をずらして、拳を握る。
こんなことを心配する権利は自分にはないのに。自分が皆を売るような真似をしたのに。こんなことを私が願っちゃいけないけど、

(…どうか、皆無事で)

絹旗は、大丈夫。あの子はああ見えて悟い子だから、きっとこの状況から抜け出せる。
滝壺も、大丈夫。あの子の能力は貴重で、アイテムの要だから。それがあるうちは生かされるはず。
浜面は、ちょっとだけ心配。だけど彼なら、ズタボロになっても最後は情けない顔をして帰ってくるって、思うんだ。


(…あ、れ?)

そこで、気づく。
結局、最初から、私だけ。


(要らないってわけ?)



少女が吠えた。
終わりはもうすぐ。でも不思議と恐怖はなかった。あんなに、怖かったのに。今はもう。

言い残すことくらい聞いてやるよ、と馬鹿にするように笑う彼女に、最後に1つだけ。



「…ばっかみたい」



(何もかも、気づくのが遅すぎた)







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