「あーっ!だめじゃん桔梗!手でつまむな!」
「なによケチね。このくらいいいじゃない」
「打ち止めが真似するじゃんか」
「私は反面教師なのよ」

ナポリタンに入っていたマッシュルームを手でつまみ食いしたらしい芳川を黄泉川が叱る。相変わらず炊飯器で出来たとは思いたくない出来栄えのスパゲティを眺めながら、一方通行はやれやれと首を振って溜め息をついた。いい年した大人が何をやっているのだろう。年が近い友達であるせいか、2人で話しているときの黄泉川と芳川の会話は普段よりも子供っぽい。特に芳川はそれが目立つような気がする。半ば呆れながら一方通行が「分かったわよ。今度から気をつけるわ」「その台詞聞いたのもう3回目じゃん!?」という2人のやり取りを眺めていると、

「いい匂いがするーってミサカはミサカは迷わずにキッチンにダーッシュ!おお、今日の夕ご飯はナポリタン!ってミサカはミサカは全身で喜びを表現してみたり!」

ドアからひょっこりと打ち止めが顔を出す。どうやら匂いで夕飯のメニューが分かったらしく、満面の笑みを浮かべると、アホ毛をひょこひょこと揺らしながらキッチンに入っていく。

「うわあ美味しそう!ってミサカはミサカは空腹のあまり口からヨダレが垂れそうだったり…。うう、これが炊飯器から出来てるなんて世の中は不思議だよってミサカはミサカは…、うーお腹が減ったー」

ぐう、と腹の虫を鳴らしてうなだれる打ち止めの様子に、芳川はくつくつと笑いを漏らす。見たら余計にお腹が減ってきてしまったらしく、普段はピンと上を向いているアホ毛までもがしゅんと元気無さげに下を向いている。

(…器用なヤツだなァ)

空腹でいつもの事務的な口調が崩れた打ち止めを眺めながら、一体あのアホ毛は一体何で出来ているのかを考える。ぜってェタンパク質以外の何かで構成されてるよなアレ、と声には出さす呟くが、深く考えるつもりはない。
一方通行的見解によれば、この家には3つの暗黙の了解があるのだ。ひとつ目は黄泉川の炊飯器スキル、ふたつ目は芳川の生活力のなさ、そしてみっつ目は打ち止めのアホ毛である。ちなみにこれを誰かに言ったことはない。

「あうー…お腹へったー」
「はいはい」

保護者の顔に戻った黄泉川は、なだめるように腰まわりに引っ付いている打ち止めの頭を撫でて、

「もうすぐ出来るからちょっと待ってるじゃん」
「その前に手を洗ってきなさい」
「…お前がな。帰ってきてから手ェ洗ってねェだろ」

あまりの変わり様に思わず一方通行が突っ込むと、芳川が微妙にしまった、という表情をした。無論黄泉川がそれを見逃すわけがない。

「なっ、桔梗!ダメじゃん!」
「ちょっと忘れてただけよ」
「だからそれがダメなんじゃんか!ホラ、桔梗も打ち止めと一緒に行った行った!」
「はーいってミサカはミサカは素直にお返事してみたり!ほらほら行くよーってミサカはミサカは動きの鈍いヨシカワの右手をぐいぐい」

そのままズルズルと引きずられるように洗面所に連行されていく芳川を眺めながら、一方通行は何とも言えない顔になる。本当に研究以外はからきしダメなのだ、芳川桔梗という人間は。一方通行は自分の暗黙の了解が正しいことを確信する。
と、「ちゃんと爪の間まで綺麗に洗うじゃんよー」と声で2人の背中を追いかけた黄泉川は、くるりと振り返ると一方通行の方を向いた。

「んじゃあ一方通行。ナポリタン出来たからお皿を並べてほしいじゃん。あと、付け合わせのパン用の小さめのやつ」

同時進行でどうやらパンも作っていたらしい。一方通行は「チッ、面倒くせェ」と文句を吐きつつも、動くために椅子から立ち上がる。
この家では基本的に黄泉川が1番偉いので、彼女に逆らうことはあまりないのだ。あまり、ではあるが。

「うんうん。働かざる者食うべからずじゃんよー」

素直な一方通行の反応に黄泉川は満足気に頷きながら、パカリと炊飯器の蓋を開ける。そこにはマッシュルームにベーコンにピーマンなどが入った、間違いなくナポリタンと呼べる料理が入っている。一方通行が持ってきた皿に、豪快にそれを取り分けると、隣にあった炊飯器からパンを取り出す。

「…なンかもう、なンでもアリだなァ。お前」
「ん?えっへん。要は使い方じゃんよー」
「照れるな、誉めてねェから」

一方通行はシュール過ぎる光景に溜め息を吐きながらも、黙ってそれらをテーブルに運ぶ。並んでいる料理は、やっぱり美味しそうだった。

(これで作り方を知らなきゃなァ…)

「ほらヨシカワはやくはやくーってミサカはミサカは早足で廊下を歩いてみたりーっ!待ってろナポリタンー!」
「こら打ち止め、廊下は走っちゃダメよ」
「違うもんこれは早歩きだもん、ってミサカはミサカは言い訳してみる」

一方通行が頭を悩ませていると、向こう側から打ち止めと芳川の声が聞こえてきた。騒がしいのが来たなぁ、とどこが楽しげに呟く黄泉川の声を聞きながら、一方通行はスパゲティの山の上にあるマッシュルームをつまみ上げると、それを口の中に放り込んだ。

黄泉川にバレないように咀嚼しながら、一方通行はうーン、と小さく唸る。

「…やっぱ美味ェ」


やっぱりウチのごはんが1番!



(あれ?アナタの口のわきにソースが付いてるのはどうしてってミサカはミサカはアナタがフライングしたことを暗に問い詰めてみる!ずるい!)
(つまみ食いしたわね一方通行)
(…気のせいだ)






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