これの番外個体視点。



ほんの気まぐれのつもりだった。
ミサカネットワーク上で拾い上げた負の感情。恐怖、怯え、憤り。どれもみんな番外個体が好み、憎む感情だ。具体的な内容までは無意識下にあるせいか分からないが、時間帯からみて大方悪夢でも見ているのだろう。

(悪夢でうなされる学園都市最強とか、ね。ぷぷっ、一体どんな夢を見ているのやら)

ほんの少し楽しげに口角を上げ、番外個体はベッド以外の物がほとんどない自室を後にする。万が一同居人や上位個体に起きられては面倒なので、足音を殺してフローリングの廊下を進む。冬場で冷えた床が足の指先の感覚を奪う。

(んじゃあ、お邪魔しますよーっと。ま、寝てんだろーけどさあ)

ギィ、と軽く軋む音を立てて、一方通行の部屋のドアが開く。隙間からそっと中を覗いてみると、部屋の中は暗く、やはり一方通行は寝ているようだった。その事を確認すると、番外個体は慎重に中へと足を踏み入れた。
対象に近づいているせいなのか、番外個体の中に流れ込んでくる負の感情が強まっていく。よっぽど夢見が悪いらしい。
これだけの感情の流出にどうして打ち止めは気がつかないのか。その類いの感情を拾いやすい番外個体が過敏に反応しすぎているのか、それとも打ち止めがミサカネットワークを管轄する上位個体として役不足なのか。どちらにせよ今はどうでもいい。

ゆっくりと寝ている一方通行へと近づく。途中、呻くような声がして起きたのかと思ったのだか、どうやらうなされているだけのようだ。ベッド脇まで近づき、膝を折って顔を近付けると、ぼんやりと浮かぶ一方通行の顔。さて一体彼はどんな顔をしているのか、と覗き込むと、

「…あ、……」

一方通行の顔は、苦しそうだった。
普段から寄せられている眉根はいつもより深く、険しい。うっすらと開いた唇から荒い呼吸が漏れる。毛布の外に放り出された手が、何かを掴もうとするように開閉しているのが見えた。

思わず汗をかいた額に手を伸ばしかけて、我にかえる。

(ッ…!ちょっと待った。ミサカは今なにをしようと、)

心臓を鷲掴みにされたような痛みが、番外個体を襲う。一言で言うならば困惑だ。一方通行がうなされるのを見て、どうして自分がこういう気持ちになる必要がある?本来なら、憎くて憎くて堪らない一方通行が苦しんでるのを見て、喜ばなくてはならないのに。この感情は、正しくない。"番外個体"の感情として、間違っているのに。

(…何コレ。意味わかんない、気持ち悪い)

それでも、番外個体の指先は先程と同じように一方通行の額へと向かった。恐る恐る、割れ物でも扱うかのように慎重に、汗で濡れた前髪をかき分ける。額に浮かぶ汗が手に付いたが、あまり気にはならなかった。指で汗をを拭うと、一方通行が身動ぎをする。

「…ッ、ァ」
「っ!」

(なんでミサカはこんなことでこんなに緊張してんのさ。ああもう、心臓がうるさいんだよ気持ち悪い。ミサカは恋するオトメかよ、あり得ないっつうの!)

らしくない、らしくないにも程がある。

一方通行が起きたら、適当に誤魔化せばいいのだ。そうだ、嘘と皮肉は自分の十八番なのだから。ぐちゃぐちゃの思考回路の中で、番外個体は自分を落ち着かせる。

(…ほんと、どんな夢見てんだっつの)

なんて顔、してんのよ。

小さく呟いて、一方通行の頬を撫でる。触れた肌は熱を帯びていて少しだけ熱い。
きっと、この行動は"番外個体"らしくない。それでも、

「!」

一方通行の身体が小さく跳ね、腕が胸元を掻きむしるように動いたのを見て、思わず腕を掴んだ。

(やばっ…!)

思ったより強い力で腕を掴んでしまったらしい。
睫毛が震えて、ぼんやりと一方通行の瞼が開いたのに気がつき、番外個体は慌てて掴んでいた腕を離した。


(…さて、なんて誤魔化そうか)



迷走ボート



(…目を覚ませば打ち止め打ち止め、ってさあ。どんだけあの子が大切なわけ)

(側にいたのは、ミサカなのにさ)







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